「角栄ブーム」で得をするのは、誰なのかスピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2016年06月07日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

何者かが「政治家ブーム」を仕掛けていた

占領を背負った男』(講談社)

 その後も白洲次郎ブームは続き、2005年7月には『占領を背負った男』(講談社)が刊行。「マッカーサーを前に一歩も引かなかった男」という日本の国益を守った交渉人のイメージが一気に広まった。では、そのころの麻生さんはどうかというと、外交の最前線で国益を守る外務大臣に就任。さらに、翌2006年9月には2度目の自民党総裁選出馬をしている。

 2008年9月に麻生さんが内閣総理大臣に就任しても、白洲次郎関連本は世にあふれ、2009年2月にはついにNHKで連続ドラマ化もされる。白洲次郎ブームと、政治家・麻生太郎の歩みが妙にかぶってしまうのだ。

 もちろん、麻生さんが自身のブランディングで吉田茂ブームを仕掛けたなどというつもりは毛頭ない。ただ、麻生さんを応援し、首相になってもらいたいと考える人々が仕掛けた可能性はある、と思っている。

 特にマスコミには、ナベツネさんを例に出すまでもなく特定の政治家とズブ……もとい昵懇(じっこん)の間柄となっている方も多い。その中の「麻生シンパ」が援護射撃をしようとしたらどうするか。「吉田茂」「白洲次郎」を引っ張り出し、戦後民主主義の正当な後継者だというアピールに利用しようという者がいても不思議ではない。

 すべては仮説に過ぎないのだが、この麻生政権では非常に興味深い現象も起きている。「吉田茂」や「白洲次郎」のブームと並行して、一部メディアが、彼らと対極に位置するような政治家のブームを仕掛けているのだ。

 それは田中角栄だ。

 覚えている方も多いかもしれないが、2008年後半は一部メディアで「いまこそ田中角栄流」「角栄政治にヒントがあった」なんて特集がよく組まれた。

 『週刊ポスト』では田中元首相が蔵相時代の政策を例に挙げ、現在の不況対策としても通用すると提言し、同じく小学館の『SAPIO』では27ページにも及ぶ大特集を組んだ。TBSの情報番組でも田中角栄が取り上げられてきた。

 ご存じのように、この時期は民主党が最も輝いていた。田中角栄の秘蔵っ子・小沢さんも「豪腕」として恐れられ、麻生さんの帝国ホテルのバー通いや、読み間違えが恥ずかしいだとかいろいろ攻撃をしていた。

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