どうすれば救えるのか シリアで人質の日本人を世界を読み解くニュース・サロン(3/5 ページ)

» 2016年06月09日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

欧州諸国は柔軟に対応

 そこでオバマは大統領政策指令や大統領令を出すことで、政府として身代金を払うことは引き続きしないが、誘拐犯らとの交渉はできるようにハードルを下げ、被害者家族にも協力すると発表した。さらに、それまでの方針をひっくり返して、被害者家族が独自に身代金を支払ったとしても訴追することはないと約束した。

 もともと人権派弁護士だったオバマは以前より、人質に関する米政府の方針が機能していないと感じていたと言われている。だがそもそもアフガニスタンでテロリストを釈放するという“身代金”を払ったことで国民から非難を浴びたのだから、方向転換せざるを得なかったというのが実情だったようだ。

 一方、欧州に目をやると、多くの国が柔軟に対処しているのが分かる。欧州諸国は、公には認めていないが、多くのケースで身代金を支払って自国民を救っている。米財務省によれば、2008年から2014年までを見ると、世界で1億6500万ドルの身代金が支払われているが、そのほとんどは欧州諸国によるものだという。2008年から6年間で、フランスは5810万ドルほどの身代金を払い、スイスは1240万ドル、スペインは1100万ドル、オーストリアは320万ドルを支払っていることが判明している。ちなみに海外の報道では、日本政府も人質解放に身代金を支払う国だと見られているようだ。

 また国家でなくとも身代金が払われる場合もある。例えば2016年2月には、シリアでISが誘拐していたアッシリア人キリスト教徒230人が解放された。ISは当初1800万ドルを要求していたが、交渉の末に要求額は半分以下に引き下げられ、身代金が支払われたことで解放が実現した。ちなみにこの身代金は、世界中の信者から銀行口座に振り込まれた寄付と、裕福なビジネスマンによる多額の寄付があったと言われている。

米政府は、誘拐犯らとの交渉はできるようにハードルを下げた

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