どうすれば救えるのか シリアで人質の日本人を世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)

» 2016年06月09日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

日本人を助けるためにできること

 いま世界で、身代金の支払いに強固に反対しているのは、すでに述べたカナダのジャスティン・トルドー首相や、身代金の支払いそのものが違法である英国のデービッド・キャメロン首相など数は多くない。まだ就任間もないトルドー首相は、アブサヤフの誘拐事件に対するコメントを出す前に、キャメロン首相に電話を入れて身代金について助言を求めている。そしてそのおかげで、堂々と身代金支払い拒否を主張したが、残念ながらその結果としてカナダ人男性は斬首された。

 ただ英国やカナダの方針は、国際ルールにきちんと則っている。というのも、国連は加盟国に対して、テロ組織などには身代金を支払わないようにうながす決議案を2009年に採択している。また2013年のG8(先進8カ国)サミットでも、同様の決議を全会一致で採択している。ただルールを厳格に守ろうとしている英国やカナダなどは、皆が結託しなければ効果のでないと言えるこの手の問題に対して、理想主義的すぎるのかもしれない。そしておそらく、生真面目な日本も、この路線から外れることはできないと考えているのだろう。

カナダのジャスティン・トルドー首相は身代金の支払いに反対している(出典:公式Webサイト)

 無責任なことを言うつもりはないが、こうした世界の状況を見てみると、今、シリアで拘束されて身代金を要求されている日本人を助けるためにできることは限られている。

 日本政府は、身代金を支払うことはないと言明している。もちろん、外交官や政府関係者ならば別の話だろうが、一般人やジャーナリストのために身代金は出さないのである。だが現状では、人質を救うには身代金を支払うしかないのかもしれない。予想もつかないような出来事が起きない限り、人質を救う手段は残念ながらあまりないと言える。

 となれば、現実的にできることは、被害者家族や支援者などが日本政府に働きかけるなどして、ヌスラ戦線に誘拐されていた人質の解放に成功しているスペイン政府(と協力したカタールとトルコ)に交渉の窓口をつないでもらい、同時に身代金を支払うべく動くしかない。特にカタールは、これまでヌスラ戦線を含むいろいろな過激派組織と交渉し、身代金による人質解放の実績がある。また日本は英国やカナダとは違い、身代金の支払いを法律で禁じているわけではない。

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