地方鉄道存続問題、黒字化・公営化・貢献化ではない「第4の道」とは?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2016年06月17日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

貢献化――地域、または親会社への貢献度を上げる

 赤字ローカル線は大きく分けて2種類ある。路線ごとに独立した私鉄や第3セクターと、大きな鉄道会社の末端路線だ。3番目の選択肢「貢献化」は、主に鉄道会社の中の赤字路線に対する処方だ。「路線単体では赤字となるけれど、この路線のおかげで、他の路線の黒字に貢献しますよ」は、観光鉄道として発展させていくために重要な考え方だ。

 例えば、JR九州は赤字ローカル線に観光列車をいくつも走らせている。しかし、1日1往復程度の観光列車で、その路線が黒字になるほど世の中は甘くない。ただし、この観光列車に乗る人々が、往復とも九州新幹線に乗ると仮定すれば、ローカル線は九州新幹線の利益の要因になる。ローカル線自体は赤字でも、JR九州の売り上げ増進に寄与する。これが「貢献化」だ。

 JR西日本が山口県で「SLやまぐち号」を走らせる。そこには、SLやまぐち号に乗るために、近畿などの大都市圏から山陽新幹線で訪れるだろうという期待がある。JR四国は予土線で観光車両を走らせている。予土線はJR四国の中で最も輸送量が少ない赤字線だ。しかし、位置的には松山空港からも高知空港からも遠い。松山、高知など四国の各都市からは、JR四国の特急列車に乗っていただく場所だ。予土線はJR四国の特急列車の売り上げに貢献している。

 JR東日本の観光列車群も同様だ。五能線の「リゾートしらかみ」は秋田新幹線や東北新幹線の旅行需要を喚起する。八戸線のレストラン列車「TOHOKU EMOTION」、釜石線の「SL銀河」、大船渡線の「ポケモン ウィズ ユー トレイン」も、東北新幹線の需要に貢献する。私鉄では東武鉄道が日光鬼怒川地域で予定しているSL列車がそうだ(関連記事)。最適な交通手段は東武特急スペーシアだ。

 会社全体に貢献しているという価値があれば、ローカル線自体が赤字でも、鉄道会社は存続を了承するだろう。株主に対しても赤字線を存続させる理由として説明できる。従って、赤字解消はできなくても、その路線の魅力を上げていく努力は報われる。

 1路線1会社の第3セクター鉄道は、価値をアピールすべき親会社がない。しかし、親会社の代わりに自治体に対して「地域にとって貢献していますよ」とアピールはできる。千葉県のいすみ鉄道はその好例だ。関東の旅好きにとって、いすみ鉄道のレストラン列車やムーミンをテーマとした車窓の認知度は高まっている。国鉄木原線時代には獲得できなかったお客さまを集めている。

いすみ鉄道は「ムーミン」をテーマとした沿線風景の演出、旧国鉄型気動車導入やレストラン列車などの取り組みで観光路線を強化。地域貢献を念頭に置く公募社長のアイデアを次々に実行している いすみ鉄道は「ムーミン」をテーマとした沿線風景の演出、旧国鉄型気動車導入やレストラン列車などの取り組みで観光路線を強化。地域貢献を念頭に置く公募社長のアイデアを次々に実行している

 ただし、鉄道の観光化によって地域にアピールしたとしても、具体的な効用を数字で表せない。JRや東武ならローカル線へ向かう経路収入を把握できる。地域へのアピールは「鉄道がきっかけで訪れた人が、食事や宿泊、土産物購入でお金を使いますよ」という感覚を伝えるだけで、実効値としてどれだけ地域に貢献したかは不明だ。観光鉄道の経済効果から、どれだけ税収が増えて、その税収と鉄道への支援金のバランスが取れているかまでは把握しにくい。

 地域貢献は、路線維持派の主張として使えるけれど、具体的数字がないと言われたらそれまで。廃止派を説得しにくい。

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