「英国のEU離脱が実現しないかもしれない」これだけの理由世界を読み解くニュース・サロン(3/4 ページ)

» 2016年07月07日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

スコットランドがEUに残留する可能性

 3つめに、次期政権が第50条を行使しないまま、総選挙に打って出るかもしれないとの憶測もある。そして、EUを離脱せずに英国がこれまで以上に有利な条件を得られるようEUと再交渉すると公約を掲げるなんてこともあり得る。

 EU側がそんな都合のいい話に乗るかどうかは分からないが、少なくともEU側も英国離脱がもたらすこれ以上の混乱は避けたいはずだ。そうすれば英国はEUに残留することになる。

 4つめがスコットランドの動向に左右される可能性である。今回の住民投票では、離脱という結果が出てすぐに、英連邦のスコットランドの動きに注目が集まった。というのも、ブレグジットの国民投票の内訳を見ると、スコットランド住民はEU残留を求める人が多数を占めたからだ。そして自治政府のニコラ・スタージョン首席大臣が、スコットランドはEUから離脱しないと発言した。

 スコットランドでは、英連邦から分離独立するかどうかの住民投票が2014年に行われている。当時、55%が英連邦に残留を支持したために、スコットランドが英国の一部にとどまったという経緯がある。今回のブレグジットの国民投票ではEU残留派がスコットランドで過半数を占めていたため、ならば英国から独立してEUに残るべきだとする意見が強くなった。EU離脱派が勝利した直後、スコットランドでは独立支持が2014年の44%から59%に上昇した。そこでスタージョン首席大臣は、EUのメンバーではない英国からの独立を問う第2回目の住民投票を行うと主張している。

 つまり、英国がEU離脱を行使すれば、スコットランドが住民投票で英連邦から独立してしまう可能性が高い。そうなれば英国は欧州最大の埋蔵量である北海の海洋油田を持つなど重要な地域であるスコットランドを失うことになる。英国議会はできればそれを避けたいだろう。

 またスタージョン首席大臣は、英国がスコットランドにも関係ある法律などを制定する際に、スコットランド議会からの同意が必要になると主張している。そしてスタージョンは、スコットランド議会による同意を拒否することになると示唆している。そうなれば離脱は難しくなるが、専門家の間ではスコットランド議会の「同意」は必ずしも必要ないとの見解もあり、これについては今後さらなる議論が行われることなりそうだ。

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