依田勉三という郷土の偉人と同じく、北海道を重要なエリアだと考えていた可能性はないか。そうでなくとも、思い入れの強い地域だったことは間違いないはずだ。
いずれにせよ、森氏と縁の深い静岡、北海道という2つの地域に、50年以上のロングセラー商品がそろって存在しているというのはまぎれもない事実だ。
森氏にとってこれらの商品は、その土地に生きる人々の生活を豊かにしようという思いがこめられた、本当の意味での「ご当地商品」ではなかったか――。
依田勉三の資料を寄贈した翌年、森氏は社長を退いた。会長職となってからは時間に余裕ができたのか、故郷・静岡の発展に尽力。先ほど触れた田子の放流事業などがスタートしたのもちょうどこの時期だ。
そんな森氏勇退のタイミングで、日清が当時の世界最大規模となる製めん工場を、東洋水産の焼津工場からほど近い場所に建設した。安藤百福氏の次男で社長の宏基氏は、「本州の中央部で物流面で便利であることと、水、電力が豊富なこと」(1995/04/13 静岡新聞)を進出理由として挙げた。
宏基氏といえば、マーケティング部長時代、「どん兵衛」を生み出したことで知られている。先の小説『燃ゆるとき』では、あれは当時空前の大ヒット商品となっていた「マルちゃんのカップうどんきつね」(「赤いきつね」の前身)をパクったものとして描かれた。
「日華食品」なんて悪役に仕立てた森氏への「意趣返し」のようにみえてしまうのは、考えすぎか。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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