「キンドル読み放題」は書店を街から消すのか加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(2/4 ページ)

» 2016年08月31日 06時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]

厳しい状況が続く紙の書籍

 一方、紙の書籍は流通業界を中心に厳しい状況が続いている。出版取次大手のトーハンは今年6月、八重洲ブックセンターの株式の49%を鹿島建設グループから譲り受けると発表した。社長もトーハンから派遣されたことを考えると同書店は完全にトーハン傘下に入ったと見てよい。また、新宿南口の大型書店であった紀伊国屋書店新宿南店も8月7日をもってフロアを大幅に縮小し洋書のみの取り扱いとなった。

 八重洲ブックセンターは、鹿島建設のオーナーで無類の読書家として知られていた鹿島守之助氏が「全ての本をそなえた書店が欲しい」という夢を実現すべく設立に奔走した書店である。当初は流通している全ての書籍をそなえる計画だったが、書店組合の反対に遭い、規模を縮小しての開業になったといわれる。

 同書店は、鹿島建設の本社跡地に自社ビルという形で建設されており、まさに本を売るためだけに作られた理想的な書店であった。最終的には150万冊もの書籍をそろえることになり、日本における書店の概念を一変させるほどのインパクトを業界にもたらした。

 売却の直接のきっかけは八重洲の再開発計画といわれているが、出版不況の影響で業績が低迷していたのは事実である。大型書店の象徴的な存在であった八重洲ブックセンターの売却は、出版流通市場が大きな曲がり角に差し掛かっていることを如実に示している。

 書店の再編は既に進んでおり、2008年には丸善が、2009年にはジュンク堂書店がそれぞれ大日本印刷の子会社になった。今回八重洲ブックセンターを買収したトーハンは、2013年にブックファーストも子会社化している。出版不況と言われてから久しいが、書籍流通の最下流である書店の経営が特に苦しくなっているのは、出版独特の流通形態が大きく関係している。

photo 八重洲ブックセンター、荻窪ルミネ店

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