「キンドル読み放題」は書店を街から消すのか加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(4/4 ページ)

» 2016年08月31日 06時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

当分の間は生き残れる?

 ではアマゾンの読み放題サービスは日本の出版市場にどのような影響を及ぼすのだろうか。参考になるのは聴き放題サービスで先行している音楽業界だろう。音楽業界では定額聴き放題のサービスが全世界的に定着しつつある。

 音楽聴き放題で最もシェアを伸ばしているのは「Spotify」(スポティファイ)というスウェーデン生まれの音楽配信サービスである。Spotifyは、3000万曲以上のライブラリーの中から聴きたい曲をいつでも聴くことができるサービスで、広告が入るといった制約はあるものの基本的に無料で利用できる。月9.99ドルを払えば制限なしに音楽を聴くことができるが、有料会員は既に3000万人を突破している。米Googleや米Appleも同じようなサービスを提供しており、音楽の世界では、定額聴き放題が完全にグローバル・スタンダードになったといってよい状況だ。

 ところが日本市場は例外となっている。Spotifyは日本市場に進出を試みたが、レーベルとの間で権利関係の調整が進まず、なかなかサービスを開始できなかった(9月にはスタートできる見込み)。国内では、エイベックス・デジタルとサイバー・エージェントの2社が共同で設立したAWAなどが定額配信を行っているが、曲数に限りがあり、十分に普及が進んでいるとは言い難い。

 諸外国ではCD販売は既に廃れており、音楽配信が主流となっている。日本は全く逆で、いまだにCDの売り上げが音楽コンテンツ市場の85%を占めており、この状況はそう簡単に変わらない可能性が高い。

 日本の音楽業界で定額聴き放題が普及しなかったのは、絶対的なコンテンツ不足による影響が大きいと考えられる。その点でアマゾンは、多くの出版社の協力を取り付けた状態にあるが、全ての作品が読み放題になっているわけではない。コンテンツの数が増えないと利用者数を伸ばすことは難しいだろう。

 また、紙の書籍の購買層は各年齢層に広く分布しており、年齢による偏りが少ない。経済的に余裕のあるシニア層が存在していることで、当分の間、購買力は維持できる可能性が高いと見ていい。書店が街から姿を消すのはまだ少し先になるだろう。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

 著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.