爆発的ヒット『君の名は。』 昔からの新海誠ファンが抱く複雑な感情とは?新人記者(オタク女子)が行く(3/4 ページ)

» 2016年09月12日 06時00分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

“新海作品の魅力”とは?

――そもそも、お2人の「新海誠作品との出会い」はいつでしたか?

ヒデタカ: 俺は2003年です。雑誌『ニュータイプ』についてきたDVDに、『雲のむこう』のパイロット版予告が入っていた。背景……特に雲の描写が「『天空の城ラピュタ』みたいだ!」と引かれて、ハマりました。

 そのDVDには『新世紀エヴァンゲリオン』や『攻殻機動隊』の映像も入っていて、俺にとってアニメ・漫画の世界との出会いと新海作品との出会いが一緒だったんです。その頃は中学生だったから、『ほしのこえ』のDVDはすぐには買えなかったけど、上映されていた下北沢の映画館に聖地巡礼はしました。『雲のむこう』の公開をむちゃくちゃ楽しみに待って、それからはリアルタイムで追いかけていました。一番好きな作品は、エンタメが好きなのと初めて見た思い入れもあって『雲のむこう』です。

ケンジ: 僕はヒデタカさんよりは出会いは遅くて、2010年ごろ。女友達が熱烈にオススメしてきたこともあって、DVDで『秒速』を見ました。僕が驚いたのも背景描写で、とにかく「今まで見たことがない」と思うくらいキレイだった。1日に何回も再生しましたし、今でもたまに“流しっぱなし”にしますね。ネットだとラストに「落ち込んだ、つらい」という反応がありますけど、僕はガッツリした恋愛の経験がなかったからか、共感や没入はあまりなくて、1つの恋愛ものとして見ていました。好きなのは『秒速』。やっぱり最初に見た作品のインパクトは大きいですね。

ヒデタカ: 『ほしのこえ』『雲のむこう』はどうでした?

ケンジ: 実はあんまりハマらなかったんですよね。先に『秒速』という“進化版”を見てしまったからかもしれない。特にグラフィック面で、個人で作った『ほしのこえ』と、制作体制ができてきた『秒速』とでは大きな違いがありますから。もちろん、それぞれに違った良さはありますけど。

ヒデタカ: ああ……TYPE-MOONでいうと商業デビュー作の『Fate/Stay night』を先にプレイしてしまったので、同人版の『月姫』がピンと来ない感じ? 分かります。

――新海作品の特徴はなんですか?

ヒデタカ: まず大きいのは、背景の美しさと、光の使い方。特に夕方の雰囲気がすばらしくて、すごく切なくなりますね。“マジックアワー”を描くのがうまい。

美しい背景と光が新海監督作品の特徴(C)2016「君の名は。」製作委員会

ケンジ: それから独特のせりふ回し。聞いているこっちが「あーっ!」と頭を抱えたくなるような詩的で恥ずかしいせりふや心の声が多い。特に初期作品はそういうところが目立ちますね。『秒速』の「その瞬間、永遠とか、心とか、魂とかいうものが何処にあるのか、わかった気がした」とか、「ただ生活をしているだけで、悲しみはそこここに積もる」とか……。

ヒデタカ: せりふの“間(ま)”も特徴的。ちょっと独特のテンポがある。聞いただけで「新海節だ!」と言いたくなるような……。minoriのエロゲー「ef - a fairy tale of the two.」のオープニングを新海監督は担当しているんですが、その会話の雰囲気なんかまさに「新海だ!」と言いたくなる。

ケンジ: あとは男女でせりふを交互に言い合うシーンも特徴ですね。だんだんと掛け合い間が短くなっていって、2人の思いがぐっと近づく……見ているこちらのテンションも合わせて上がっていく。『秒速』だと「昨日、夢を見た」「ずっと昔の夢」。『君の名は。』でも「大事な人、忘れちゃだめな人、忘れたくなかった人」あたりがそうでした。

 ……でも、“新海監督の作風”というのは、ちょっとまとめるのが難しいかもしれません。

――そうなんですか?

ケンジ: 新海監督はどんどん進化していく人なんですよ。インタビューでは、過去作のことは忘れてしまったみたいに言っていましたが(笑)。僕としては、『ほしのこえ』『雲のむこう』『秒速』は似た空気を持っている作品で、新海監督が自分の中にあるものをアニメとして描いて、それをファンの側からのぞき見るという感覚があった。でも、4作目の『星を追う』からは、監督の方から「見てくれ!」と与えてくるような感じで、ファンの側が受容するようになったと思っています。

ヒデタカ: リアルタイムで追いかけていて、正直『星を追う』は「なんだこれ?」と思ってしまった……。「スタジオジブリ作品のような映画を作りたい」という気持ちだったんだろうけど、カットや曲の使い方が「ジブリで見た」となってしまった。これまで実際の街の光景をたくさん描いて、SF設定があっても現実感があったのに、ファンタジー世界がメインになったのも驚いたし。

ケンジ: 『秒速』までの3作品はどちらかというと男性向けで、男性が見て「ああ……分かる……」と共感できるもの。『星を追う』以降は、女性向けも意識しているんじゃないかな。実際、『星を追う』から女性ファンも増えてきているらしいです。

 ただ、どの作品も“距離のある恋愛”をモチーフにしているという意味で、根底では似ているのかもしれません。『ほしのこえ』と『秒速』は物理的な距離だし、『雲のむこう』は離れてしまった世界、『星を追う』は死別、『言の葉の庭』は年齢差。そして『君の名は。』につながっていく。

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