さらに付け加えるなら、その長くしんどいプロセスの間、担当者たちを常に叱咤(しった)激励してくれる役員の存在が重要だ。
本当に実現できるか、そして利益を生むか分からない段階から、何人かの人数が関与して検討やヒアリングで多くの時間を費やすため、延べ人数にすると相当な工数となる。それでも新規事業開発が経営の最重要課題の一つだと認識している経営者が大手企業には多い。だから着想者が役員本人の場合はもちろん、社内出自であれば、かわいい部下が考え出したアイデアを実現するために苦労しているチームをサポートしたくない役員はめったにいない。
しかし外部の人間が考えたアイデアの場合(当初は素晴らしいと思われたものでも)、どうしてもその後の扱いが辛口になりがちで、すぐに事業化が難しいとなれば、我慢強くサポートする代わりに引導を渡すことになりがちだろう。
こうしたNIH症候群を非難することはたやすいが、人間心理に根差したものゆえに企業現場から排除することは難しい。現実的なやり方はむしろ「制御する」ことだ。つまりそうした心理が生じやすいことを前提に、いかに実害をなくすかに工夫を凝らすのである。
かなり昔だが小生にもNIH症候群による苦い経験が幾つかある。そうした経験を重ねた結果、弊社では新規事業案を企画するプロジェクトでもコンサルが主導して新事業を着想する方式は執らない。あくまでコンサルはファシリテータとしてプロジェクト参加者の着想やその発展を促す役に徹するようにしている。
もちろん、着想のヒントや他業界の類似ネタを出したり、「例えば……」という形で方向づけをしたりすることはある。その場を経営者の方々が見たら多少まどろっこしい部分もあろうが、結局はそのほうが事業化実現の可能性が高くなると信じているからである。参考にしていただけると幸いである。 (日沖博道)
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