ビル・クリントンはアーカンソー州で知事になる前から地元で女癖の悪さはよく知られていた。そして、ヒラリーもそれを知っていたようだが、目をつぶってきた。彼女に批判的な保守系のメディアなどは、ヒラリーという妻は、夫の浮気すらも容認することで、自分の利益のためにビル・クリントンを完全に手玉に取っていたと指摘している。
余談になるが、この「密約」は、2007年にニューヨークタイムズ紙の敏腕記者2人の連名で出版されたクリントンの評伝『Her Way: The Hopes and Ambitions of Hillary Rodham Clinton』によって明らかにされたものである。この「密約」話については、その後に一部のヒラリー関係者から疑問符がつけられている。またメディアでも当時、誰がもともとこの証言しているのか、と物議になった。
いろいろな説が出たが、結局、その情報源はビル・クリントンが信頼するレオン・パネッタ大統領首席補佐官(後の国防長官)に話した内容だったことが明らかになっている。
40年以上にもわたって、世界中に浮気夫の見苦しい言い訳や嘘、そして家庭の恥を晒(さら)されながらも、耐えてきたヒラリー・クリントン。結局、その我慢が報われることはなかった。世界で最も権力のある政治家になる寸前でキャリアは終わった。
大統領夫婦に返り咲くことができなかったクリントン夫婦、これから2人の関係がどこに向かうのか注目されそうだ。
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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