こうみると、シンガポールは非常に慎重に時間をかけてカジノ解禁に向けた議論を行ってきた印象がある。実は、シンガポールでは2004年よりも以前からカジノ計画はたびたび浮上しては消えており、議論自体はもっと長く続いていた。これも日本と同じである。
シンガポールがそれまでカジノ解禁に慎重になっていた理由は、2002年にリー・シェンロン財務相(現首相)が、当時浮上したカジノ解禁への声を却下したコメントから知ることができる。リーは、「(シンガポール国民に)ギャンブル依存症が増えるリスクがある。また、組織犯罪やマネーロンダリングにつながる」とし、その上で社会不安を引き起す可能性があり、シンガポールの徹底した統制社会への脅威になると示唆した。
そういう背景から、停滞気味だった観光産業の起爆剤として2004年にカジノ解禁が現実味を帯び始めた際も、慎重な検討が行われたのである。
政府はもちろん、国民の8割を華人が占めるシンガポールで、マネーロンダリングや犯罪行為などを行う華人系の犯罪組織が台頭して政府の一党独裁体制を脅かすことを懸念していたが、それ以上に、国民から上がっていたギャンブル依存症に対する懸念への対策も十分に検討した。
なぜギャンブル依存症の懸念が高まったのか。世界的に見ても、シンガポール人は無類のギャンブル好きだからだ。シンガポール人は、オーストラリア人に次いで、世界で2番目にギャンブルに金を使う国民だ。政府が管理する合法賭博(ロトやトト、競馬やサッカーなど)だけでも、国民は年間80億ドルを費やしている。
そんな国民性を考慮して、シンガポールはカジノ解禁に合わせて、慎重に利用者についてルールを決めた。シンガポールのカジノでは、外国からの観光客は無料だが、国民からは入場料を徴収する課金制度をとっている。シンガポール人は、1日につき100SD(シンガポールドル、約8000円)で24時間のみカジノを利用できる。また、1年間の年間パスもあり、2000SD(約16万円)を支払えば1年間出入りができる。国民にとってこの金額設定はかなり高く、気楽に足を運べる額ではない。また地元メディアでのカジノ広告を一切禁止している。
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