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スポーツ界はテクノロジーでどう変わる?2020年の東京五輪に向けて(1/2 ページ)

» 2017年01月03日 07時00分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

 日本スポーツアナリスト協会は12月17日、年次カンファレンス「スポーツアナリティクスジャパン2016」を開催。スポーツビジネスや競技にテクノロジーを活用した事例を紹介するとともに、今後の展望を示した。

photo セッションの風景

 2015年に発足したスポーツ庁で長官を務める鈴木大地氏は基調講演で「海外では、スポーツ観戦にテクノロジーを取り入れたサービスが始まっている。中でも、スタジアムで競技を生観戦しながら、スマートフォンやタブレット上でリプレイを視聴できる『スタジアムアプリ』の注目度が高い。日本でも参考にしたいと考えている」と語った。

 一方、競技へのテクノロジーの導入は、既に一定の成果を上げている。16年8月に開催されたリオデジャネイロ五輪では、日本選手が、トレーニングや対戦相手の研究にデータ分析を導入。テクノロジーを導入したからといって好成績が保証されるわけではないが、結果的に史上最多となる41個のメダルを獲得した。鈴木氏は「テクノロジーの活用を含めた強化プランを確立し、東京五輪では金メダルの数をリオの2〜3倍に増やしたい」と語り、今後も国家として注力していく方針を強調した。

 では、リオデジャネイロ五輪の前に、日本選手はテクノロジーをどのようにして取り入れたのだろうか。柔道と女子バレーボールの事例をご紹介する。

柔道界の固定観念を覆した井上監督

 「柔道ニッポン復活への道標−データの活用と勝負の分かれ目−」と題するセッションでは、シドニー五輪の金メダリストで、現在は柔道全日本男子監督を務める井上康生氏が登壇。データ分析を活用した柔道選手の強化について説明した。

photo 自身の取り組みを語る井上康生氏(右)

 井上氏の現役時代は、データの重要性があまり認識されておらず、ビデオで対戦相手の試合を見て、「この選手は内股が得意だ」などとコーチの主観的な助言を受ける程度だったという。現役引退後も「柔道家たるもの、データに頼らず自分だけの力で勝ち上がるべき」と、精神論的な考え方が柔道界では一般的だった。

 しかし、ロシアの伝統的な柔術であり、レスリングと似た円形のマット上で投げ技や抑え込みを競う「サンボ」など、自国の伝統的な格闘技を柔道に取り入れる傾向が世界各国で加速。日本選手は、国際大会で他国選手の変則的な動きに対応できず、成績を残せないことが増えたという。そして、12年のロンドン五輪では、日本人選手は金メダルを手にすることはできなかった。これは、オリンピック種目に柔道が加わってから、初めてのことである。

photo 井上監督のプロフィール(=井上監督の公式サイトより)

 「ロンドン五輪終了後に私が監督に就任した際は、データに関する先入観を壊すことから始めた。当時は、辛く、苦しい練習を積み重ねることが勝利につながると考えられていた。しかし、結果を出している海外のチームに目を向けると、計算された合理的な練習をしている。そこで、『対戦相手の研究や練習の改善をしなければ試合で勝てない』と周囲に説いた。現在は、データ分析に精通したスタッフが代表チームに参画し、世界各国の強豪選手をリストアップして特徴を細かく分析している」(井上氏)

 代表チームでデータ分析を担うのは、全日本柔道連盟 科学研究部の石井孝法氏を中心とするチームだ。同氏は、6台のカメラを駆使して海外の有力選手の試合を撮影し、スポーツ庁が行う「ハイパフォーマンスサポート事業」の一環として開発した「GOJIRA(Gold Judo Ippon Revolution Accordance)」と呼ぶシステムで海外の強豪選手を詳細に分析。試合の時間帯ごとの技の傾向や、技の組み合わせのパターンも把握したという。

photo 「GOJIRA」の画面イメージ

 リオ五輪では、過去最多となる12個のメダルを獲得した。しかし、井上氏は「これで満足するのではなく、新たな体重の減量方法や、新たな戦術の考案にも力を入れていきたい。選手を世界一にするには、我々が世界一の戦術家・戦略家でなければならない」と語る。

 国際柔道連盟が12月9日にルール変更を発表し、判定基準のうち「有効」を廃止することが決定。戦略が大幅に変わることが予測されるが、井上氏は「本格導入される17年8月までにデータ分析を進め、新ルールにしっかりと対応したい」と決意を新たにした。今後もさまざまな方面から強化方法を探るという。

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