なぜそこに駅はできるのか?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/3 ページ)

» 2017年01月06日 07時40分 公開
[杉山淳一ITmedia]

JR西日本の「摩耶駅」は阪急と阪神を意識

 JR西日本にも戦略的な新駅がある。2016年3月のダイヤ改正に合わせて開業した「摩耶駅」だ。東海道本線の六甲道駅と灘駅の間にある。周辺は市街地で、元々需要が高そうな地域である。北西方向約600メートルの距離に阪急電鉄の王子公園駅があり、南へ約250メートルの距離に阪神電鉄の西灘駅がある。明らかに、北と南のライバルのお客さんをいただこう、という位置だ。

摩耶駅の位置(この地図は国土地理院発行の地理院地図<電子国土Web>を使用したものである) 摩耶駅の位置(この地図は国土地理院発行の地理院地図<電子国土Web>を使用したものである)

 こんな市街地に駅を作ろうとすれば、用地確保が問題になる。しかし幸いなことに、ここはかつて貨物駅があった。貨物扱い終了後は信号場として、貨物列車や回送列車が待避し、旅客列車を先行させるなどの用途もあった。その余地のおかげで用地問題をクリアして駅を設置できた。東海道本線のこのあたりは複々線となっていて、プラットホームは各駅停車用の線路のみ設置されている。建設費の約40億円はJR西日本が負担している。

 この駅が戦略的な理由はもう1つある。駅の両側に渡り線を作り、西側の神戸方面、東側の大阪方面へ折り返し運転を可能にした。この駅が始発終着となる列車はないけれど、事故などで運休区間ができた場合に折り返し運転ができるため、稼働区間を長く取れる。

新駅を作る条件

 戦略的に新駅を作る場合、乗客数の見込みが重要になる。先に挙げた三河塩津駅の場合、一日平均乗車人員は1350人(2010年)だった。隣接する名鉄の蒲郡競艇場前駅は148人(同)で、JR東海の三河塩津駅の方が約9倍の集客だ。

左側の単線が名鉄の蒲郡競艇場前駅。右側の複線がJR東海の三河塩津駅(出典:Wikipedia、投稿者 ButuCC氏) 左側の単線が名鉄の蒲郡競艇場前駅。右側の複線がJR東海の三河塩津駅(出典:Wikipedia、投稿者 ButuCC氏

 この両駅だけ見れば三河塩津駅の圧勝だけど、JR東海の中で比較すれば、乗降客数2000人以下はかなり少ない。しかし、蒲郡競艇場前駅の実績をにらんだ見込みだったはずだから、この結果も予測済みだろう。逆に考えると、JR東海は乗車人員2000人未満でも駅を設置できると言えそうだ。

 もう1つ、両隣の駅との位置関係も重要だ。隣の駅とは離れているほうがいい。近接しすぎていると列車は十分に加速できず、路線全体の所要時間を延ばしてしまう。最も良い方法は各駅停車が待避して急行に追い越させる構造にする。しかし設備が大きくなり建設費に跳ね返る。隣り合う駅からの徒歩圏が重複すると、隣の駅の乗客が減ってしまう。

 摩耶駅の場合、東側の六甲道駅とは約1.4キロメートル離れている。これは大都市の電車の区間としては一般的だ。しかし、西側の灘駅とは約0.9キロメートルだ。1キロメートルを下回ると、やや短い印象がある。8両編成の通勤電車は1両が約20メートル。8両で160メートル。駅間距離は列車の約5.6編成分だ。

摩耶駅。列車の回生ブレーキで発生した電力を駅舎で使うシステムを導入した(出典:Wikipedia、投稿者 Jr223~commonswiki氏) 摩耶駅。列車の回生ブレーキで発生した電力を駅舎で使うシステムを導入した(出典:Wikipedia、投稿者 Jr223~commonswiki氏

 東海道新幹線は約25メートルの車両が16両だから約400メートル。つまり、灘駅〜摩耶駅間は東海道新幹線2編成とちょっと、という距離になる。徒歩で15分くらいだ。隣の駅まで1キロメートル未満だと、さすがに近すぎる感がある。

 JR西日本としても、本当は両隣の駅の中間地点に駅を作りたかったはずだ。しかしこれは用地に依存する決定である。しかたない。隣の駅まで0.9キロメートルだけ電車に乗る人はほとんどいない。神戸、大阪、あるいはもっと遠くへ向かう人のための駅だと割り切るしかない。それが戦略というものだ。

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