金正男だけでない!? 殺人工作のリアル世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2017年03月02日 07時39分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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同じような暗殺事件が繰り返される

 今回の金正男暗殺事件も、犯行は監視カメラの映像に収められていた。近代的になった世の中だからこそ犯行の様子が監視カメラに映っていて、事件の解明に一役買っている。監視カメラはプライバシーの問題が指摘されることもあるが、犯罪が起きたときなどには貴重な捜査資料となる。

 こうした露骨とも言える暗殺工作は、多くの場合、結果的に責任の所在がはっきりしないことが多いし、うやむやのまま中途半端に捜査が終わってしまうことも少なくない。ドバイのケースやイランの核科学者の殺害事件のように、ほぼ犯人は分かっている場合でも、工作を企てた国が罪を償うところまではいかない。

 日本では、米国がこの問題にからんで北朝鮮を再びテロ指定国家にするというような憶測が出ているが、おそらくその可能性は低い。そもそもこの件は金一族の身内の問題だと見られており、米国はこの手の権力闘争、つまり内政に干渉してテロ指定国家にすることはない。米国と北朝鮮ともども、国が揺れるような話ではないからだ。米国ではこのニュースはそんなに大きく扱われていないし、米政府も深く関与する暇はない。さらなる核実験や挑発的なミサイル発射、米国に対するサイバー攻撃ならその可能性はあるだろう。また、米諜報・工作機関もこれまでの経験から、孤立の度が強い北朝鮮には暗殺など工作活動を行うのが難しいのも分かっている。

 今回の金正男の暗殺について、マレーシア政府はこの状況をどうすることもできないだろう。おそらく北朝鮮はしらを切り通し続け、うやむやのまま時間だけが過ぎていくことになる。結局、マレーシア政府も国内で起きた外国人の殺害事件を取り締まっているという、国としての姿勢を強調したいだけだ。極論すれば、誰も真実は求めていない。

 そして世界では、また同じような暗殺事件が繰り返されることになるのである。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。


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