「SPACETIDE」で語られた宇宙ビジネスの今宇宙ビジネスの新潮流(3/3 ページ)

» 2017年03月10日 08時00分 公開
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パネル2「イネーブラーとしての宇宙」

 昨今はAI(人工知能)やIoT(Internet of Things)といった新技術をさまざまな企業がビジネス活用しようとするのと同様に、宇宙技術も世界中のさまざまな産業が活用しようとしている。「宇宙がイネーブラーとして他社のビジネスを支援する。宇宙×広告代理店、宇宙×農業、宇宙×養殖、宇宙×創薬という観点で、どのようにビジネスに使っているか」という、モデレータを務めたグローバルブレインの青木英剛氏の掛け声とともにパネルが行われた。

左から青木氏、小田氏、小西氏、藤原氏、舛屋氏 左から青木氏、小田氏、小西氏、藤原氏、舛屋氏

 電通 宇宙ラボの小田健児代表は「宇宙ラボは、宇宙に関する相談窓口で、宇宙×○○の掛け算の達人。バーチャル組織で60人ほどが参加しており、国内外の宇宙ベンチャーや非宇宙系企業とコラボレーションを進めてきている」と紹介した。そして、「宇宙技術×179の産業分類の掛け合わせを検討しており、既に宇宙×バイト、宇宙×コミュニケーション、宇宙×教育など30くらいの実績がある。掛け算が命。宇宙は見えにくい、分かりにくいが、表現や体験を創造していきたい」と意気込みを語った。

 農業分野向けの位置測位ソリューションを提供するマゼランシステムズジャパン(関連記事)の小西覚氏は「高精度測位を使って、トラクターの自動運転や無人運転をしようというのは量産化の段階にきている。古くは、高精度測位はコストも高く、測量分野でしか使われなかったが、10分の1以下のコストを実現することで用途を広げてきた」と自負する。他方、これまでの道のりは「最初は安かろう、悪かろうという評判の中で、デモを繰り返すことで顧客の信頼を得てきたプロセス」と地道な努力を語った。

 水産養殖向けのデータサービスを起業したウミトロンの藤原謙代表(関連記事)は「1次産業と衛星データの組み合わせは非常に可能性がある」と着目。「養殖は成長産業だが、エサ代が生産コストの70%を占めている。生産管理するためのデータはほとんどなく、海に一歩出るとセンサーネットワークを張り巡らせるのも難しい」と産業課題を語る。そうした中で、「衛星から取れる海面温度とプランクトン分布、生簀(いけす)の成育データから養殖生産の効率化を目指していくが、今後はやはりコストが下がること、顧客の何を解決できるのかが重要」と強調した。

 JAXAと連携して、国際宇宙ステーションで実験しているぺプチドリームの舛屋圭一氏は自社紹介として「薬作りというのは非常に労力がかかるが、ぺプチドリームの基盤技術を活用することで、創薬の入口にあたる薬の種を探す過程がシンプルになる。抗体やタンパクのX線情報からペプチドをデザインして、ペプチドから低分子をデザインして、それが開発につながっていく」と述べ、その過程として「無重力の宇宙空間ではペプチドの結晶化がキレイにできる。そのため従来見えなかったものが見える」と説明。その経済インパクトは計り知れないほどだという。

 宇宙技術を活用することで、実際に現場のオペレーションが変わること、あるいはこれまでできなかった何かが実現されること、そうした目に見える成果につながることが、今まさにグローバル規模でビジネスに求められているのだ。

 次回の連載でも引き続き、SPACETIDE 2017での白熱した議論の模様をお伝えしていく。

著者プロフィール

石田 真康(MASAYASU ISHIDA)

A.T. カーニー株式会社 プリンシパル

ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、10年超のコンサルティング経験。東京大学工学部卒。内閣府 宇宙政策委員会 宇宙民生利用部会 委員。民間宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE2015」企画委員会代表。日本発の民間月面無人探査を目指すチーム「HAKUTO(ハクト)」のプロボノメンバー。主要メディアへの執筆のほか、講演・セミナー多数。

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