マツダ独自のデザインを見せるための塗装池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2017年03月13日 07時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

金属表面の反射率を科学する

 日本刀の黒光りとは何なのか? マツダはまずそこから研究を始めた。アルミと鉄では同じ金属でも光り方が異なる。アルミの反射光は白く、鉄は黒い。それが何故なのかは金属表面の光学特性を測定してみて分かった。両者の表面を電子顕微鏡で覗くと、アルミは金属表面のすべてが光を反射していたが、鉄には微細な穴があり、その穴が光を吸収して、入射光の一部を吸収していたことが分かった。それが黒光りの正体である。

 では、それをどうやって塗装で再現するのか? その1つのヒントになったのはメタリック塗装である。メタリック塗装は塗料層の中にアルミフレークを混ぜ込んで、このアルミフレークに乱反射した光がキラキラと輝くのである。ちょうとアルミ箔をくしゃくしゃにした状態だ。この乱反射によって、単純な平面であっても、アルミフレークの乱反射が表情を作り、造形に深みを与える。だからメタリック塗装は高級という図式になっている。

 メタリック塗装にはホログラムと似たような性質があり、反射が一様でないため、どこが反射面か分かりにくい。それが深みを与えるメカニズムなのだが、同時にそれは欠点でもある。微妙なプレス面の変化を付けても、塗装の乱反射に隠れ、分かりにくくなってしまうからだ。反射面の偽装効果のデメリットである。

 もし、このアルミフレークの向きを一定方向にそろえれば、当然反射の向きがそろって擬似的に面を作れる。さらにフレークとフレークの隙間が鉄の微細な穴の役割を果たす。フレークの隙間を通って来た光を黒い下地で吸収すれば、鉄の表面の光学特性を再現できるはずである。

 そのために、高輝度かつ従来より細かいアルミフレークを開発し、フレークのサイズと密度の管理を従来より厳密にして大きさと隙間をそろえた。言葉にすれば簡単だが、一体どうやって面をそろえたのか?

 マツダは塗料の乾燥速度をコントロールした。塗料の有機成分が蒸発して層の厚みが落ちていくときに、立っているフレークが徐々に倒れ、すべてのフレークが水平に寝た方向にそろう。恐らく揮発速度と塗料の粘度を制御したのだと思われる。

 こうしてフレークの向きがそろえば、従来のメタリック塗装のようにアルミ箔をくしゃくしゃにした状態ではなく、平滑な金属らしい反射面を再現できる。ちなみにフレークとフレークの隙間のサイズと分布は鉄の表面を再現してある。隙間を透過して見える下地には鉄の穴と同じく黒色の塗装を施した。こうして金属の光沢を持ちながら、乱反射せずに平滑に反射し、しかも黒光りするマシーングレーが完成した。

塗料に混ぜ込むアルミフレークの向きを揃えるという前代未聞の技術で成立したマシーングレー 塗料に混ぜ込むアルミフレークの向きを揃えるという前代未聞の技術で成立したマシーングレー

 では、ソウルレッドクリスタルメタリックはどうなのか? マツダ第2のイメージカラーとしてマシーングレーができたのであれば、第1のイメージカラーも刷新したい。赤は赤で課題がある。それは発色の鮮やかさと深みの関係だ。赤は鮮やかにするとどうしても深みがなくなって軽くなる。かと言って、深みを出そうとすれば、ワインレッドや黒ずんだ赤になって鮮やかさを失う。

 これを解決するために、マツダは鮮やかさを上げた顔料層の下にマシーングレーで培った高輝度アルミフレークを使い、さらに光を反射する高輝度アルミフレークとは逆に光を吸収するフレークを投入した。これによって、鮮やかな顔料を使いながら、下層の反射率をコントロールすることで、鮮やかさと深みの両立を成し遂げた。これがソウルレッドクリスタルメタリックである。

鮮やかな赤と深みのある赤を両立するために開発されたソウルレッドクリスタルメタリック 鮮やかな赤と深みのある赤を両立するために開発されたソウルレッドクリスタルメタリック

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