「ベンチャーは免罪符ではない」DeNAは何を誤ったのか事業の拡大を急ぐあまり

» 2017年03月13日 19時35分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 DeNAが行っていたキュレーション事業は何が問題だったのか――。DeNAは3月13日、第三者委員会の調査報告書を公開。同日、第三者委員会が東京・渋谷で記者会見を行い、同事業の問題点、原因分析、再発防止策の提言について説明した。

 DeNAは「WELQ」をはじめとする10のキュレーションプラットフォーム事業を新たな収益の柱とするべく展開していたが、2016年11月に著作権侵害や医療情報の取り扱い方法などの問題が表面化。現在全ての記事を非公開化している。

第三者委員会の委員長名取勝也弁護士。「永久ベンチャーは免罪符ではない」とキュレーションメディアの問題を指摘した。

著作権上・薬機法など法令上の問題

 キュレーション事業には、法令上に大きな問題があった。

 DeNAが運営していた10サイトの記事37万6671件についてサンプル調査をしたところ、「複製権・翻案権侵害の可能性がある記事」の出現率の統計的な推計値は、1.9〜5.6%の範囲内(最大で約2万1000件)。「可能性がないとは言えない記事」の同推計値は0.5〜3.0%の範囲内(最大で約1万1300件)だった。

 加えて、10サイトの記事に掲載されていた画像472万4571個のうち、74万7643個については、複製権侵害の可能性があるという。

 また、内容について問題とされたWELQの記事19本について調べたところ、薬機法(旧薬事法)、医療法、健康増進法に違反する可能性のある内容を含むと認められる記事は、薬機法について8本、医療法について1本、健康増進法について1本だった。

 例えば「妊活の基礎知識と始め方! 赤ちゃんをおなかに迎える為にできる7つの事と妊活サプリ♪」と題する記事で、市販のサプリメントが未承認の医薬品などの効能効果を標榜(ひょうぼう)するとともに特定の製品に誘因する意図があると記載されていると考えられ、薬機法68条に違反する可能性があるとしている。

倫理的な問題と、プロバイダ責任法上の問題

 その他の問題としては、倫理的なものと、プロバイダ責任制限法についてのものが指摘された。

 倫理的な問題としては、(1)「死」など配慮が求められる繊細なテーマを扱う記事にアフィリエイト広告を掲載していた、(2)医療に関する記事に配慮を書いた内容を記載していた、(3)医療に関する記事に医師の間でも見解に相違がある内容を安易に記載していた──などが挙げられる。

 また、著作権を侵害するとは言い切れないが、他の記事からコピー&ペーストされていると考えられる記事、出典が不明瞭で引用方法として不適切である記事なども見られたという。

 また、プロバイダ責任制限法も論点となっていた。ユーザーが自身でコンテンツを投稿するプラットフォームであれば、プロバイダ責任制限法の適用を受け、法令上のDeNAの責任は限定的となる。しかし、第三者委員会は「DeNAのキュレーション事業は、プラットフォームではなくメディアである」とし、クレームに対して適切に対応していなかった」としている。

原因・背景分析

 第三者委は、こうした問題が起こった原因と背景はどのようなものだとみているのか。

 まず大きな原因として挙がったのが、「iemo」を運営するiemo社と、「MERY」を運営するペロリ社の買収に関する問題だ。

 まず、iemo社とペロリ社の買収によりキュレーション事業へと新規参入する段階で、同事業に関する分析、議論が尽くされず、事業リスクが適切に把握されなかった。そしてiemo社およびペロリ社の買収後、キュレーション事業を開始する局面において、同事業の潜在的なリスクに対する予防策が十分に講じられなかったと指摘する。

 両社の買収に際しては、著作権リスクについての指摘がなされていたにもかかわらず、法的に問題のない解決策が実行されることがなかった。買収額が適切かどうかも議論を呼んでいたが、これについては適正だったとした。

 そして、事業を開始し、拡大していく過程においても、リスクチェックや手当が十分ではなかったために、リスクの顕在化を招くとともに問題の早期発見が遅れたこと、事業運営に対する「自己修正」を妨げる要因が複数存在していたことも指摘している。「WELQ」については、医療情報を取り扱ううえで専門家の監修が必要だと指摘されていたにもかかわらず、コストの問題から十分に果たされることがなかったという。

「永久ベンチャーは免罪符ではない」

 委員会は、再発防止策として以下の4点を提言した。

 1点目は、DeNAが目指すべき企業としてのあり方を正しく認識しなおすこと。ベンチャー企業としてスタートした同社は「永久ベンチャー」を社風として標榜するが、「永久ベンチャーは免罪符ではない。再度明確に社としてのあり方を定義付け、全員の共通認識とすべき」と名取勝也委員長(弁護士)は述べる。

 2点目は、事業の進め方について、数値偏重方針からステークホルダーへの配慮をもった公正な稼ぎ方へと移行すること。本事業は目標数値が非常に高く設定されており、関係者が「守安功社長からの指示があり、目標達成することを強く求められている」と感じているような状況であった。

 中でもSEO(検索エンジン最適化)における目標は高く、SEOで効果が高いキーワードに関する記事の量産体制が敷かれていた。サイトごとに感覚が異なるが、少なくともWELQに関しては外部ライターの18人中8人が「コピペを推奨するような環境だったと感じている」と答えたという。

 3点目は、事業参入後の必要十分なチェックや振り返りを継続していく体制とプロセスを検討すること。記事量産のため、多くの外部ライターやインターンが記事を執筆している状態になり、チェック体制が不十分だった。こうした状態に対するリスク感覚を醸成するべきとしている。

 そして4点目は、キュレーション事業に関して、適切な再検討を行うこと。「再び社会の信頼を得るように努力することを期待する」(名取委員長)としている。

 「DeNAはキュレーション事業を行うことで、どのような価値をどの相手に提供するのかが見えにくく、どのようなリスクや影響の認識ができていなかった。事業の拡大に注目するあまり、慎重な配慮が足りていなかった。そこについては真摯に受けとめ、反省し、会社としての方針を採るべきだと考えている」(名取委員長)

 第3者委は12月から3カ月にわたって調査を実施。97人に合計134回のヒアリングを行うとともに、保全されたデータ約520万件、抽出されたデータ約307万件、キーワード検索後のレビュー約27万件を調査。また記事のサンプル調査、役職員やクラウドライターなどからも意見を募集した。

左から、弁護士の岡村久道氏、名取勝也氏、西川元啓氏、沖田美恵子氏

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