日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」に迫っていきたい。
こういう状況になると必ずといっていいほどぶち上げられてきた経緯があるので、「もうそろそろかな?」と思っていたら案の定というタイミングで飛び出した――。
北のミサイルの話ではない。もはや日本のお家芸といっても差し支えない「日の丸連合」のことだ。
「粉飾」「巨額損失」からの「監査なし決算」と次々とトリッキーな会計テクニックを見せて、世間を驚かす東芝が、上場廃止をなんとか避けるためにぶちまけた半導体事業売却を日本企業がそろいもそろってスルーした数日後、『日本経済新聞』に「経済産業省も支援する形で、東芝や経済界が大手企業を中心に共同出資の打診を始めた」なんて「日の丸レスキュー構想」がぶちあげられたのである。
『東芝半導体に官民「日本連合」 富士通など参加検討』(日本経済新聞 4月8日)
『日本勢、技術流出防ぐ 東芝半導体入札に参加めざす』(日本経済新聞電子版 4月8日)
これらの記事で紹介されているような監督官庁や政府系ファンドも巻き込んだ壮大な「絵」を一民間企業が描けるわけがない。経済産業省の官僚が記者にネタを食わせて書かせているリーク記事、業界で言うところの「観測気球記事」なのは明らかだ。
ご存じのように、これまで日本はエルピーダメモリ、ルネサス エロクトロニクスというグローバル競争に負けた半導体メーカーを「だって、日本の基幹産業だもの」の一言で公金を投入して救ってきている。これらの2社と比較して競争力も高く、将来性も見込める東芝の半導体事業に手を差し伸べないという理由がない。
とはいえ、これは裏を返せば、原発事業で下手をこいた東芝に助け舟を出すということでもあるので、「国策企業はどんなムチャクチャやっても最終的には国がケツを拭いてくれるのかよ」というモラルハザードを産業界に引き起こし、崩壊前のソ連みたいになる恐れもある。
そこで、一部マスコミに「計画」をリークして、世論の反応をうかがうとともに、出資を呼びけている日本企業に「牽制」を行なったとみるべきだろう。こういう「観測気球記事」は官僚が好んで使う情報操作のひとつだ。
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