地上波の各テレビ局は、年間900億〜1000億円程度の資金を番組制作に費やしている。出演するタレントのギャラや美術制作費などは全てこの費用に含まれる。TBSやテレビ朝日が番組制作費を増やす一方、フジテレビは16年3月期には930億円、17年3月期には882億円まで減少した。同社の制作費は民放キー局の中で4位となっている。
テレビ局は、ドラマやバラエティ番組など、制作したコンテンツの中身(視聴率)でほぼ収益が決まってしまう。当然、コンテンツビジネスの核心部分ともいえる制作費を大幅に削減することは大きなリスクを伴う。視聴率を早期に回復させ、制作費を増額していかなければ、同社のコンテンツ制作能力は今後、大きく低下する可能性があるだろう。
もっとも、この問題はフジテレビに限った話ではない。視聴率低下が著しいことからその影響がフジテレビだけに顕在化しているように見えるが、テレビ全体の視聴率(総世帯視聴率)は、多少のバラツキはあるものの年々低下が進んでいる。ゴールデンタイムの視聴率は10年には63%もあったが、2016年は59%まで下がっているのだ。若者のテレビ離れなどの影響を受け、今後も視聴率低下が進むと言われているので、いずれ各社もフジテレビと同じような状況に陥る可能性がある。
在京キー局は、地方のテレビ局を系列化しグループを形成しているが、キー局は一括して受け取った広告料金をネットワーク分配金という名称で地方局に分配している。この金額は各局当たり300億円程度と推定されるが、この資金がなければ地方局の経営は成り立たないので、削減することは難しい。テレビ局の設備などにかかる減価償却も同様である。
そうなってくると、数少ない変動費である制作費を削減することになるわけだが、これは確実にコンテンツの質の低下をもたらす。テレビ局の収益構造は硬直化しており、視聴率の低下に柔軟に対応することができなくなっているのだ。すぐには大きな問題は起きないだろうが、フジテレビの業績低迷は、実はテレビ局全体の近未来なのかもしれない。
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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