次に、炎上するブラック企業は「マスコミ」だスピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2017年07月04日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

「人のせいにする」カルチャー

 マスコミ業界も宅配業界もそれをうかがわせる「症状」が出ている。

 2016年12月、佐川急便の正社員男性が荷物や台車を何度も放り投げる映像が話題を集めたのを覚えているだろう。何度も執拗(しつよう)に荷物を蹴り上げていたこの男性は、「いろいろストレスがたまっていて、イライラしてやってしまった」と述べている。仕事中のふとしたきっかけにキレてしまったのだ。

 それからほどなく、マスコミ業界でも同様の「ブチ切れ映像」が話題になる。2017年4月、千葉県我孫子市でベトナム国籍の小学3年生の女児が殺害された事件を取材していた共同通信社の20代の男性記者が、取材を断った近隣住民の自宅の壁を蹴っていたのだ。

 「長時間労働が当たり前のブラック業界」のなかで、おそらくこの佐川社員も共同通信社員も真面目に仕事に取り組んでいたはず。しかし、自分たちで思う以上に彼らの精神は追いつめられていたのだろう。だから、「届ける先が不在だった」とか、「取材しようと思ったら断られた」という、ちょっと自分の思い通りにならないことが起きだけなので、「爆発」してしまったのである。荷物蹴り上げ映像が流れた宅配業界で時を同じくして「パワハラ訴訟」や「未払い残業代請求」など現場の反乱が続いたことを考えると、マスコミ業界にも同じ現象が起きる可能性は高い。

 そして、3つ目の共通点は「人のせいにする」カルチャーである。このように現場がボロボロになって働いているにもかかわらず、「上」はその問題の本質から目をそらして、よそに責任を転嫁させていることだ。

 未払い残業代問題がここまで顕在化する前、いわゆる「宅配クライシス」の問題をヤマトはアマゾンのせいにしていた。

 一部メディアで「7万6000人未払い残業代調査」が報道された直後、まるでそれを火消しするかのように、長尾裕社長が日本経済新聞の取材に応じて、27年ぶりの値上げを行ない、アマゾンと価格交渉に入ったと明らかにしたのである。

 ヤマトの現場が疲弊してきたのは、残業代など二の次で荷物を届けていた宅配ドライバーのみなさんの「個人のがんばり」に依存する成長モデルが崩れてきたことにあるのは明らかなのだが、そういう構造的な問題を「ケチなアマゾンに買い叩かれている」という話へすり替えようとしていたとしか思えないのだ。

 こういう我が身を決してかえりみないところは、マスコミもまったく同じだ。

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