AIが囲碁や将棋の必勝法に及ぼす影響は?人間対コンピュータ(3/3 ページ)

» 2017年07月19日 06時30分 公開
[中村亮一ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所
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 実は、必勝法の存在や先手や後手がどの程度有利なのかという点については、本当はあまり気にすることではないのかもしれない。現在のルールは、過去からの人間の対局を通じて得られた経験データなどに基づいて、一定の判断が行われて、設定されてきたものである。仮に、これから人間以上の先読みが可能なコンピュータプログラムが、その自己対局などに基づいて、何らかの結果を導いたとしても、人間同士の対局でそのような結果が得られるとは限らない。従って、コンピュータプログラムによって得られる結果はあくまでも参考程度のものでしかないとも言える。

 一方で、コンピュータプログラムが強くなっていくことを通じて、人間もまたその技術を学ぶことで強くなるというような形で、人間の能力も向上していくことが考えられる。実際にそのような形で、お互いが切磋琢磨(せっさたくま)して、さらなる高次元の勝負が行われるようになり、ゲームの醍醐味が増していくことが期待されているものと思われる。

 また、コンピュータによって、ゲームの結果が完全に解明されたとしても、ゲームの面白みが失われて、ゲームの寿命が終わるということにはならないだろう。五目並べもそれ自体引き続き幅広く楽しまれているし、ルールを変更した「連珠」が競技として普及している。

 結局は、ゲームを楽しむのは人間であり、ゲームのルールを作るのも人間自身である。必要とあらばルールを変更することも、スポーツの世界ではしはしば行われている。ゲームの世界も結局は、必要に応じて、適当なルールの調整を行っていくことも、また必要不可欠だと言うことだろう。

 仮に、完全なゲームの解析がコンピュータで行われたとしても、ちょっとしたルールの変更がこうした分析の前提を大きく変更することになり、これらの解析の意味を低下させてしまうことにもなる。こうしたルールの変更にコンピュータがどの程度柔軟に対応できるのかは分からない。

 いずれにしても、人間がゲームの主体である限り、人間はそうしたルール変更なども自在に行うことができ、それに対応できる柔軟性を有している。

 AIがいくら高度に発展し、ゲームの必勝法を解明したとしても、人間は、自分たちが決めたルールの中で、自らの頭で考え出した最善の手を尽くすことで、引き続きゲームの奥深さの魅力を感じつつ、ゲームを楽しむことができる、ということだろう。

筆者プロフィール

中村亮一(なかむら りょういち)

ニッセイ基礎研究所 取締役 保険研究部 研究理事 年金総合リサーチセンター長

研究・専門分野:保険会計・計理


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