安倍内閣は成長戦略の1つとして「コーポレートガバナンス(企業統治)改革」を掲げ、法改正など矢継ぎ早にその対策を打ち出している。一気に押し寄せてきたコーポレートガバナンス改革の波に対して、日本企業はどう対応すべきなのだろうか? 課題は何か? 有識者などの声から次の一手を探る。
巨額の粉飾決算が発覚した東芝を引き合いに出すまでもなく、日本企業の不正や不祥事は後を絶たない。
デロイト トーマツグループが2016年に実施した調査によると、上場企業の中で4社に1社が過去3年間に不正が発生したと回答。その内容は、資産の横領や不正な財務報告、汚職などさまざまだが、不正の発生割合は減少するどころか、発生部署は広がりを見せているという。
多くの日本企業が内部統制をはじめ、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの強化に乗り出している一方で、なぜ不正は一向になくならないのだろうか。
「職場がヤバい! 不正に走る普通の人たち」の著者であり、数々の企業で経理業務に携わってきたフリーランスのプロ経理、前田康二郎さんに企業にはびこる不正の実態を聞いた。
――不正が起きやすい企業の傾向や体質というものはあるのでしょうか?
私はこれまで業種業界を問わず、大企業や老舗企業、ベンチャーと幅広い会社を見てきましたが、結論から言うと、どんな会社でも不正は100%あります。
こういう話をすると、多くの人は企業で不正が起きてしまう過程など具体例を聞きたがりますが、それを知ったところで自社の改善にはつながらないと思います。なぜなら100社あれば100通りの不正の起き方があるからです。重要なのは、各々の会社で不正が起きないようにすることです。
不正が起きる原因はさまざまですが、日本企業でよくあるのが「思い込み」です。以前、会計士に呼ばれて、ある赤字の会社に赴きました。私は帳簿を見てすぐに「これは間違いなく不正をやってる」と断言しました。けれども、会計士は「これは社長の印鑑が押してあるからそんなことはない」と返すのです。いざ調べてみると、社長が数十年にわたり絶大な信頼を寄せていた経理部長が不正をしていたのです。社長はその経理部長に決裁の承認や捺印などの権限を持たせていたのですが、会計士は先入観で判断していたわけです。
私が言いたいのは、不正にはいろいろな形があることをまず知り、自分の会社はどういった不正が起こり得るのかというのを、経営者も経理部門も現場のマネジメント層もきちんと頭で考えておくべきです。そうしなければ不正は防げません。
先ほどあらゆる企業で不正が起きると言いましたが、そうした中でも不正が起きやすい企業はあります。1つは、経理などの管理部門が社内で軽視されているような企業です。
業界を問わず、経営者は営業や技術など現場部門出身の方が多く、自ずと出身部門を優遇してしまいがちです。一方で、経理などを「お金を計算、管理するだけの部署」だと勘違いし、それを公言したり、他の社員の前で経理を軽んじるような言動をしたりする経営者がいます。するとそれが社員にも悪影響を及ぼし、「あんなちょろい経理なら多少の不正は楽勝」と、不正に手を染めてしまう社員が出てくるのです。
もう1つは、そうした職場環境の中で経理自身がモチベーションを下げ、不正に走ってしまうケースです。普段から馬鹿にされている上司や会社へ仕返ししてやろうという発想です。なお、経理が不正する場合、経営者にそれを嗅ぎつける能力がない限り、発見はまず難しいでしょう。
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