漫画『カレチ』『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』が描く、国鉄マンの仕事と人生杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2017年10月13日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』誕生秘話

――時代は変わりまして、今回、第1巻が発売となる『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』のお話を聞かせてください。これ、「ちょんまげ雑誌」というとリイド社さんに叱られそうですけど、江戸時代の話が満載の『コミック乱ツインズ』の連載です。この中で、明治時代の鉄道の話は異色の存在。先生のファンの方は先生の公式サイトやTwitterで知ってくださったと思いますが、一般の鉄道ファンからすると盲点のような雑誌で(笑)。逆に江戸時代ファンの方が『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』を読んで、鉄道の世界に開眼される方も多いと思いました。

池田: そういう意味では目立ちますよね(笑)。

photo 『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(C)池田邦彦/リイド社

――この時代を選ばれた理由は何でしょうか。『カレチ』、そして都電の話『でんしゃ通り1丁目』と、昭和の時代がお得意のように思いました。あえて明治時代、鉄道の黎明(れいめい)期を選ばれた。

池田: お話をいただいた編集者さんから、「実は時代劇の雑誌なんです」と(笑)。そうですか時代劇ですか。で、最初は戦国時代という話もあったんです。

――何となく編集者さんの気持ち、分かります。制約の多い役職の中で、人情味を発揮して問題解決していく、戦国時代には、荻野カレチみたいな武将がいたかもしれない。

池田: 戦国は無理です。でも、江戸時代なら平賀源内のからくりの話とか、江戸時代に陸蒸気の模型がやってきてからの話とか、それならと。佐賀藩の人たちが初の国産蒸気機関車を作った話なんて面白そうで、「江戸のモデラー」っていうタイトルを考えたりして。でも考えがまとまらないうちに、鉄道で明治でどうですか、というお話をいただいて。だったらできるかも、と思って、明治5年の鉄道開業の頃の話を描いたんです。でも、これでもピンと来なくて「もっと自由にやってください」と言われて、そこから明治30年代の『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』につながる構想が始まった。

 そうすると、明治の鉄道開業の頃の錦絵の鉄道と、現代につながるような、カレチの鉄道の世界観は違うわけですよね。歴史の教科書に出てくるような、カラフルなヤツ。その絵の世界と、現代の鉄道はどこで変わったんだろう、と考えた。それで、調べるほど分かってきたことは、初期の明治の鉄道は軽便鉄道みたいな簡素なもので、日本人がお抱え外国人に使われていて……。

――ああ、日本の鉄道だけど、日本人の話ではなくなってしまう。

池田: 日本人が鉄道を自分のものにした、それはこの時代らしい、と思った時点が、明治の終わりから大正にかけて。日本の鉄道でいろんなことが変わっていったらしいなと。

――輸入鉄道時代から国産技術時代に変わってくる。日本独自のことをやり始めるころ。

池田: そして、鉄道の国有化時代の始まりでもある。実は、『カレチ』と『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』で、国鉄という1つの時代の始まりと終わりを描いているんです。国鉄っていうと、戦前の国鉄と戦後の国鉄は組織や形態が違うって言う人も多いと思うけれど、鉄道の国有化っていう時代が国鉄の始まりだったなと。

 そうすると当時の組織であるとか、車両が国産化してきたとか、狭軌だ広軌だっていう話もこのころありましたけど、狭軌で極限を目指すんだ、という方針が固まったのもこの時代なんですね。それでこの時代を選びました。

――この時代に魅力的な男がいましたね。主人公の島安次郎。国産蒸気機関車の開発に関わり、改軌論を唱えた人。息子さんが東海道新幹線の開発に関わった島秀雄。新幹線の父の父、ですね。

池田: この時代は官僚制度が固まってきた。そこで、官僚側の主人公として島安次郎を立てました。これは実在の人物。そして、カレチでも重視してきた「現場」の立場を代弁する人として機関士の雨宮。彼は架空の人物です。この2人がぶつかり合いながら、日本の新しい鉄道を作っていく、という話です。

――雨宮、カッコいいですよねぇ。さて、この2人の仕事観についてもお伺いします。

(続く)

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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