24時間営業縮小から思う「地方創生」の真実小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)

» 2017年10月18日 06時30分 公開
[中井彰人ITmedia]
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大村益次郎に学ぶ

 地域に根差した企業を育てていくと言うと、中小企業支援施策という官製の補助金のようなものを連想してしまうが、企業におカネをばらまく仕組みがうまくいった試しはない。それよりは、優秀な経営補佐人材、もしくは優秀な経営支援人材を、中央から招く仕組み、それも地縁(Uターン、Iターン、嫁ターンなど)があり、定着してくれる人材をマッチングする仕組みに資金を投下すべきだ。こうした人材が、定着を前提に地域企業に貢献する流れが、最も有効だと思う。

 NHKの「英雄の選択」という番組で、明治維新で活躍し、後に明治政府の兵部大輔(陸軍大臣)となる大村益次郎を主人公とした回があった。大村は、幕府(中央)で重用された技官で幕臣待遇であったにも関わらず、出身地である長州藩のスカウトを受け入れ、格下である長州藩士としてUターン就職する。大村が求めたのは幕臣としての安定ではなく、自らの構想を実現(実験)する可能性の方だった。

 大村を得た長州藩は、その提案による軍制改革を断行し、四境戦争で幕府の大軍を撃破する。前提はまったく今とは異なるとはいえ、思うのは、中央に出ていった優秀な人材をいつかは地域に取り返す必要があるということだ。地域にいる、志ある人材と中央で活躍する人材とが切磋琢磨することで、きっと新たな知恵が生まれる。そのためには、相応の報酬を提供する仕組みを作って、人材回帰にカネを使ったほうが有効だ。

 少し前に、富士市産業支援センター(f-Biz)という静岡県富士市の中小企業支援施設が、1000万円以上の年俸を提示して、センター長やマネジャー(中小企業支援人材)を全国から公募することで話題となった。それから年月を経て、支援成果が実績化していることから、同様の仕組みを導入する自治体はいまや13に増え、さらに50以上の自治体が導入を検討中だという。

 この活動の主宰者である小出宗昭氏は、中小企業支援の実効性を上げるためには「すべては支援する人材の適性」と語っている。高い報酬と引き換えに高い成果を求め、お役所仕事を排除する、これが実績につながっているという。彼らの総会的な会議体は「Biz版地方創生会議」というらしい。地方創生の重要なヒントがここにあるような気がしたのである。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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