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ポップコーン会社の再建を 野球界から転身した男の奮闘託された経営改革(1/4 ページ)

» 2017年10月25日 07時20分 公開
[伏見学ITmedia]

 試合終了の瞬間、歓喜に沸く福岡ソフトバンクホークスとは対照的に、東北楽天ゴールデンイーグルスの選手たちは悔しさをにじませた。

 プロ野球クライマックスシリーズのファイナルステージで敗れ、4年ぶりの日本シリーズ進出とはならなかったが、今シーズンのイーグルスの快進撃はファンの心を高ぶらせた。そんなイーグルスの球団幹部として長きにわたり選手や監督、コーチなどとともに戦い、そこからまったく異なる世界に飛び込んだ男がいる。

 現在の彼の主戦場はポップコーン。「そういえば、数年前にブームになったな……」と記憶している人は多いだろう。国内でのグルメポップコーンの先駆けである専門店「HillValley(ヒルバレー)」を運営する日本ポップコーンで、執行役員COO(最高執行責任者)として経営の一翼を担っているのが上田顕さんだ。

日本発のポップコーンブランドとして2013年1月に開業した「ヒルバレー」の中目黒本店 日本発のポップコーンブランドとして2013年1月に開業した「ヒルバレー」の中目黒本店

 建て直し――。

 これが上田さんをはじめ新経営陣に与えられたミッションである。ポップコーンはブームが去ると、各社ともたちまち大苦戦を強いられた。2〜3年ほど前には店舗に連日大行列ができていた米国シカゴ発の「ギャレットポップコーン」も今では労せずに商品を買うことができる。

 ヒルバレーも売り上げが低迷した結果、2015年10月に投資ファンドが株主に。17年春からは岩立誠治現社長や上田さんなどが経営の舵とりを任せられたのだ。

 新経営陣は一気に事業改革を推し進める。まずは店舗数をピーク時の15店舗から7店舗にまで削減。アイテム点数が多くてSKU(在庫管理単位)管理が複雑だった商品構成もシンプルにして、「バッグタイプ」は1種類、「缶タイプ」は3種類にした。分量も顧客から分かりにくいと不評だったため、明確に表示するようにした。

 一方で、新商品として「ボックスタイプ」を開発した。従来、バッグタイプや缶タイプのグルメポップコーンは賞味期限が1〜10日程度というのが一般的だったが、同社独自のパッケージング技術によってポップコーンの食感やおいしさは作り立てそのままに、賞味期限は製造から120日以内という長さの箱入り商品を作り上げた。これによって、長期に保管できるなどギフト用のポップコーンとして商品展開できるようになったのである。また、ボックスタイプに関しては店舗で封入するような手作業がないことで、人件費を抑え商品全体の原価率を下げるだけでなく、オペレーションの時間を減らして回転率を高めることができたのだ。

 このように矢継ぎ早に改革を行ったことで同社の業績は上向きに。6月に発売したボックスタイプが売り上げ好調なことも相まって、6〜8月の期間で既存店の客単価が20%伸びたのだ。

 「ブームが起きたので一時的にポップコーン市場は大きくなりました。そこから低迷したとはいえ、実は市場自体はそれほど小さくなっていません。なぜならポップコーンそのものには、映画鑑賞やスポーツ観戦のシーンに代表されるように、安定的な消費者のニーズがあるからです」というのが上田さんの見立てだ。そこにギフト需要という新たな領域を開拓した意味は大きいという。

日本ポップコーン 執行役員COOの上田顕さん。東北大学理学部を卒業後、三井住友銀行、アクセンチュア、楽天野球団を経て、日本ポップコーンに入社。プロ野球の分析・コンサルティングやデルタ・ベースボール・リポートの執筆を行うDELTAの戦略アドバイザーにも就任 日本ポップコーン 執行役員COOの上田顕さん。東北大学理学部を卒業後、三井住友銀行、アクセンチュア、楽天野球団を経て、日本ポップコーンに入社。プロ野球の分析・コンサルティングやデルタ・ベースボール・リポートの執筆を行うDELTAの戦略アドバイザーにも就任

 こうした収益面の施策に並行して、社内の組織変革を推進した。この中心となったのが上田さんである。では、具体的に何をどう変えていったのだろうか。実はこの取り組みの陰には、上田さんがこれまでのキャリアの中で積んできた経験が大いに生きているのだ。

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