小田急ロマンスカー「GSE」が映す、観光の新時代杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2017年12月08日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

時流に合わせた「ロマンスカーの系譜」

 ある路線で車両を全て交換する。そのメリットはサービスレベルや保守だけではない。性能を統一することで、路線全体の運行速度を上げられる。過密ダイヤに対応できる。だから大手私鉄も、JRも、混雑路線では予算が許す限り早期に全ての車両を取り換えたい。山手線などは今が過渡期だけどすぐに全て新型になる。

 一方で、もちろん予算の都合があるとはいえ、慎重に時流に合わせた車両を導入する例もある。かつて紹介した東京モノレールがそうだ。羽田空港の役割に合わせて、性能や客室の仕様を変えた車両を導入している。

 では、小田急ロマンスカーはどのように時流を受け止めてきたか、形式と登場年に沿って見てみよう。

1949年 1910形が初代ロマンスカーとなった。戦後、大東急から分離した小田急電鉄にとって、箱根輸送という「自分らしさ」を取り戻す列車だった。2人掛け向かい合わせのボックスシートをロマンスシートと呼んだ。ただし、普通列車としての運用も考慮し、一部ロングシートだった。後に2000形と改名される。

1951年 1700形を導入。ロマンスカーの人気が高まり車両を増やすことになり、2000形を追加導入するよりも、特急用の新型を導入した。箱根行き特急の需要が手堅かったという背景がある。

1955年 2300形、キハ5000形登場。後述のSE車を準備していたけれど、朝鮮特需によって予想より早く特急客が増加した。そこで急きょ、最新の通勤用電車に特急用の室内装備を搭載した車両が2300形。キハ5000形は非電化だった御殿場線に直通するために作られた。

1957年 3000形(SE:Super Express)登場。新宿〜小田原間60分を目指し、最新技術をふんだんに使った特急用車両。「重くて強力なモーター」という常識を覆し、軽量、高速を主題とした。車両同士を台車でつなぐ「連接式」を採用し、曲線区間の速度向上を狙った。神武景気もあって4編成を投入し、小田急ロマンスカーの地位を確固たるものにした。後に時速110キロ運転、新宿〜小田原間62分を達成。

1963年 3100形(NSE:New Super Express)。先頭車展望席付きの初代。箱根特急の人気はとどまるところを知らず、ロマンスカーの増発を計画。3000形を増備するよりも、斬新な新型を投入すべきという意見が通った。東京オリンピックで、日本が世界から注目される機会でもあった。61年に登場した名古屋鉄道のパノラマカーに次ぐ展望席付き列車は大人気となる。ロマンスカーはSE、NSEの2車種となった。

1980年 7000形(LSE:Luxury Super Express)。SE車の置き換えのために製造された。NSEの登場から17年が経過しており、同型式の製造は念頭になかったようだ。先頭車展望席付きで、デザインや内装、走行機器などは時代に即した新しい意匠・仕様となった。ロマンスカーは箱根方面のLSEとNSE、御殿場線に乗り入れるSEの3車種となった。

photo 7000形(LSE)

1987年 10000形(HiSE:Hi Super Express)。 ロマンスカーの増発のため新造。LSEの増備ではなく、小田急電鉄60周年記念として、新たな意匠が求められた。観光バスのハイデッカー化に刺激されたこと、展望座席以外の眺望に配慮した。Hiに固定した意味はなく、ハイパフォーマンス、ハイデッカー、ハイグレードなどのイメージによる。ハイデッカー構造が徒となり、バリアフリー対応ができず、LSEより先に引退した。

1991年 20000形(RSE:Resort Super Express)。長らく御殿場線直通列車で運用され、老朽化したSE車を置き換えるために投入された。展望座席はなく、中間に2階建て車両を採用。連接車ではない。JR東海もほぼ同じ仕様の371系電車を導入し、相互直通運転を実施した。

1996年 30000形(EXE:Excellent Express)。老朽化したNSE車を置き換えるために製造された。乗り入れ用の20000形の増備は念頭になく、12年前の10000形の改良でもない。この頃から回送列車を旅客化した通勤客向けの特急に人気があり、ビジネス利用を重視した新コンセプトで作られた。6両と4両に分割して複数の行き先の受給バランスに対応した。展望席も2階建て車両もないため、鉄道ファンや旅行客には不評だった。しかし天井は高く座席間隔も広いため、通勤や買い物利用客には好評。意図通りの車両となった。

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