小田急ロマンスカー「GSE」が映す、観光の新時代杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2017年12月08日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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2005年 50000形(VSE:Vault Super Express)。白いロマンスカー。LSE、HiSEの置き換えとして、箱根特急のフラッグシップとして登場した。バブル崩壊後の景気低迷により箱根の観光客が減少傾向となり、箱根行きロマンスカーの乗客数も減少していた。新型、新コンセプトのEXEは、沿線の人々にとって重宝され特急利用客も増えていた。しかし、箱根向け特急利用客には不評。そこで、箱根観光の起爆剤として、外部デザイナー岡部憲明氏を起用し、新しい展望室付きロマンスカーとして製造された。大胆なデザインながら、前述の岡部氏の「平面ガラスを使ってワイドな車窓」という言葉から察するに、予算を抑えつつ、最大限の魅力アップを目指したといえる。

2008年 60000形(MSE:Multi Super Express)。青いロマンスカー。EXEが開拓したロマンスカーの通勤利用に注目し、東京メトロ千代田線へ直通するロマンスカーとして製造された。VSEに似た外観ながらも展望座席はなく、地下鉄の安全基準を満たすため、流線型の前面に非常用扉を設けた。ビジネス利用を主体としているため、EXEと同じく6両と4両の分割に対応して需給バランスに配慮している。20000形の引退後は御殿場線直通列車にも起用され、現在は箱根特急にも使われる。

photo 60000形(MSE)

2017年 30000形 (EXEα)。70000形(GSE:Graceful Super Express)登場。EXEαは製造から20年が経過したEXEを延命させる目的で、内外装をリフォームした。70000形は赤いロマンスカー。長らく使用してきた7000形を置き換えるために製造された。50000形から12年経過し、箱根観光の潮目が変わった。インバウンド需要が高まり、箱根観光客も増加。スマートフォンが普及し、車内サービスの在り方も変わっている。VSEは箱根需要喚起、GSEは箱根観光のさらなる強化という背景がある。

photo 30000形(EXEα)

202X年 80000形 (?SE)。製造から30年近く経過したEXEαを置き換えるために製造されるかもしれない。EXEは7編成もあり、分割併合機能が必要な列車を全て現在のMSEでまかなえるかという心配もある。28年にはMSEも製造から20年を迎えるため、地下鉄直通運転が継続していれば、MSEの後継車種と分割併合運転機能を継承する新型車が登場するだろう。

 新たな時流に合わせた車両が登場すれば、古い時流の車両は陳腐化する。しかし、時流の変化は車両の交代のように明確ではなく、従来の需要も継続していくから、たいした問題ではない。そして、車両を統一しないメリットはもう1つある。「いろいろ選べる」だ。「今回は赤いロマンスカーで来たから、次は白いロマンスカーに乗ろう」。その逆もある。乗りものに飽きなければ、もう一度同じ地域で、別の体験をしようという気持ちになる。

 車両を選んで乗る人には楽しみだろうし、車種を意識しないで乗る人にとっても新たな発見だ。東海道新幹線の700系とN700系の違いに気付かない人も、50000形、60000形、70000形の違いはハッキリ分かる。箱根観光のインバウンド客を獲得するためにGSEがある。しかし、LSE、VSE、MSE、EXEαも、箱根にリピートする国内観光客に貢献する。「小田急にはいろいろあるんだね」。そう思わせ、話題になれば、観光地向け列車としては成功だろう。

photo 歴代ロマンスカーの活躍時期。1車種で統一された時期はない

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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