マツダCX-8試乗 3列目は果たして安全だったのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2017年12月11日 06時35分 公開
[池田直渡ITmedia]

理想に向かいつつの現在地

 インプレッションに移る。シートにはマツダの苦悩が見える。ドイツでの試乗記で書いた通り、マツダはシートの機能に関して新しいフェーズに入った。理論は完璧で、むしろ尊敬に値すると思う。ただ、現実がその通りになっているかと言うと、それほどうまくいっていない。

 キーは骨盤を倒さないでしっかり立てるところにある。シートの開発エンジニアに聞くと、マツダでは現在シートの面圧をすべて均等にしたいと考えている。思想的にはムアツふとん系。つまり圧を分散させて体をふんわりと支えるシートだ。系譜としてはフランス車の考え方だと思う。

高い理想に向かってチャレンジ中のシート。吸音・吸湿性能を維持しつつ、穴のサイズを小さくする取り組みも行われている 高い理想に向かってチャレンジ中のシート。吸音・吸湿性能を維持しつつ、穴のサイズを小さくする取り組みも行われている

 大人しく座っているなら良いのだが、運転動作は運動である。運動の起点としての足場機能を求めるならどこかで体を固定しなければならない。柔らかすぎるベッドやソファーに座ると、そこから身動きしにくいのと同じで、面で支えている分、どこか1点に荷重を移して体を動かしたいとき、トランポリンの上を歩くときのように点が沈んでしまう。面で支えつつ必要な場合はどこかにボトムがあってほしい。そのボトム感が足りない。後述するステアリングの切り始めの不明瞭感も、シートバックが体の動きの一部を吸収してしまうことに原因の一端があるような気がする。

 昨今ではフランス車と言えども往年のように柔らかく体を支えることはできていない。コストダウンが始まってから絶滅してしまったこの柔らかくかつ、点でも支えられるシートを、もしマツダが復活させたらそれは素晴らしいことだと思うが、まだ道は遠い。今すぐ結果を出したいならドイツ車的な硬いシートの方が結果を出すのは早いと思う。

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