仕事・恋愛に悩む現代人を救う、「哲学者」の愛のムチ「哲学の先生と人生の話をしよう」

» 2017年12月18日 06時30分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]
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 「職場での人間関係がうまくいかない」「仕事に情熱が持てない」「家族関係や恋愛に悩んでいる」――こうした人生相談に対して、気鋭の哲学者・國分功一郎氏がさまざまな哲学の理論を紹介しながらズバズバ回答している書籍が「哲学の先生と人生の話をしよう」(朝日新聞出版、税別1600円)だ。

photo 「哲学の先生と人生の話をしよう」

 例えば、ある会社員は「会社の先輩から頻繁に飲みに誘われる。しかし、行くと説教され、終電まで帰れない。断ると怒られるため苦痛だ」と相談。これに対し、國分氏はフランスの哲学者・ラカンが反乱する学生を見て述べたという「学生を鎮めるのに一番いい方法は、学生の要求を全て受け入れることだ」との言葉を紹介。「相手の主張にわざと固執し、突き詰めることで、その主張を破壊できる」と答えている。

 具体的には「『先輩、どうです? 今日も行きましょうよ』と毎日誘う。帰ろうとすると『そんなんでいいんですか? まだ飲みましょうよ』と言って帰さない」という“ラカン的な手法”を推奨。あえて飲み会の開催にこだわることで先輩は飲み会が嫌になり、開催が減るというのだ。

 また、ある女性は「私は男前が好きだ。だが28歳で独身、彼氏はいない。今更男前を追い求めることについてどう思うか」と相談。これに対して國分氏は古代ギリシアの哲学者・プラトンの「イデア論」を引き合いに出して批判する。

 イデア論とは「人間の魂は生まれる前に『イデア界』に存在し、美しさのイデア(理想の姿)を見ている。現世ではイデアを思い出すことで、人や物が美しいか否かを判断している」という考え方。つまり相談者は「男前」という理想の男性像があらかじめ存在すると考え、ぴったりな人を追い求めているというのだ。

 だが國分氏は「実際は『イデア界』も『男前のイデア』も存在しない。個人が1つの現実として存在しているだけだ」と切り捨てる。「相談者は自分がなぜ現実を見ることができないのか考えるべき。実際は『現実が嫌だ』『他人からうらやましいと思われたい』という気持ちがあるのではないか」と分析している。

 こんな具合に、國分氏は精神分析学の創始者・フロイトの「喪とメランコリー」「日常生活の精神病理学」、自著「暇と退屈の倫理学」などを引用しながら約30個の相談に答えていく。既存の人生相談本や名言集とは一線を画した本書は、悩みを解消しつつ教養を身に付けたい人にお薦めだ。

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