JR西日本、東急電鉄の事故から私たちが学ぶこと杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)

» 2017年12月22日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

点検と異常察知の“鈍感”が危ない

 この夏、JR東海の大井車両基地で、東海道新幹線車両の点検を取材させていただいた。JTB時刻表9月号の巻頭カラーページで紹介するためだ。その中に台車に関する点検があった。打音検査だ。台車を1つ1つ、担当者が金づちでたたいて点検する。たたく場所も決まっていて、1つの台車につき130カ所以上もあるという。

 台車の打音検査はセンサーには頼らない。アナログ感の極まるところだ。しかしこれは素人の私にも異常がハッキリ分かる。正しく締め付けられたボルト、亀裂のない場所は、キンキンと高い音が出る。再現してもらったけれど、ボルトの緩みや亀裂などがあると、打音がかなり低くなる。その差を例えるなら、トライアングルと木魚ほど違う。

 もし、打音で異常が出た場合はどうなるか聞いた。まず上司を呼び異常を再度確認。この段階で、本当に異常があるか、担当者の耳に異常が発生したかを見極める。異常だと判明した場合は技術担当を呼び、修理または交換の判断をする。当該車両は運行中止となり、予備の編成が代走する。

 JR西日本の会見によると、仕業点検はJR東海が東京で実施したという。のぞみ34号は博多駅の13番線ホームから出発している。時刻表を参照すると、東京駅午前8時10分発、博多駅13番ホームに午後1時10分着となる、のぞみ15号が見つかった。この列車の折り返しがのぞみ34号になる。のぞみ15号として出発する前に、大井車両基地で点検後に出庫した。あるいは、静岡発午前6時22分の東京行きこだま700号が東京駅17番ホームに午前7時37分に到着し、これがのぞみ15号になったか。いずれにしても、出発前点検はJR東海の管轄区域だ。

 台車に14センチ、開口部13ミリの亀裂が、にわかにできたとは信じ難い。もし点検の異常なしを信じるなら、突然亀裂ができたことになり、問題は深刻だ。JR西日本は点検は目視によるもので、異常はなかったと発表している。台車の亀裂も名古屋停車時には発見できなかった。つまり、ヒビが入っていたとしても、停車中はピッタリと閉じていて発見できなかったと考えられる。もし打音検査を実施していたら発見できていたかもしれなかった。ここに検査方法見直しの余地はありそうだ。

photo 台車に生じていた亀裂(出典:JR西日本)

 次に、当該列車ののぞみ34号は、博多駅を午後1時33分に発車した後、まず20分後の小倉駅付近で乗務員が最初の異臭を感じている。この異臭は、走行に異常がなくても起こり得るか、そうでないかで判断が分かれる。換気装置があるし、沿線で火災や野焼きでもあれば焦げ臭いにおいは入り込む。そういう判断かもしれない。

 岡山駅到着前には乗客から申告があり、車内に「もやがかかっている」状態だった。この時点で火災を疑い、停車時間を延ばしてでも詳細に点検すべきだった。もや、という視覚情報も信用しなかった。岡山から車両保守担当者も乗り込み、異音を確認したという。しかし、新大阪駅では異常なしと伝えた。ここでもうおかしい。

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