ユニクロで「アルバイト」したジャーナリストが見た、現場の実態とはユニクロ潜入一年

» 2017年12月25日 06時30分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]
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 第三者の視点から、企業の在り方を客観的に分析する――。こうした手法は企業ジャーナリズムの王道だ。だがジャーナリストの横田増生氏は、自らスタッフとして企業に潜入し、現場の指示系統、人間関係、商品の売れ行き、残業の多さなどを体感した上で、企業の実態を克明に描く手法を得意とする。そんな横田氏が、アルバイトとしてユニクロで1年間働いた体験をまとめたのが「ユニクロ潜入一年」(文藝春秋、税別1500円)だ。

 横田氏は以前からユニクロの“ブラック”な労働環境に関心を持ち、社員や海外下請け工場などを幅広く取材。書籍や記事で批判してきた。今回の潜入を決意したのは、ファーストリテイリングの柳井正社長がある雑誌のインタビューで「われわれはブラック企業ではない」「悪口を言っているのは、会ったことのない人がほとんど。社員やアルバイトとして働いてみて、どういう企業かを体験してほしい」という旨の発言をしたため。横田氏は、柳井社長の発言を“招待状”と捉えたというわけだ。

photo 「ユニクロ潜入一年」(文藝春秋、税別1500円)

 横田氏は正体が分からないよう、妻といったん離婚し、再婚した上で妻の姓を名乗るという“合法的な改名”を経てアルバイトの面接に臨み、「イオンモール幕張新都心店」(千葉市)のスタッフとなる。その後も「ららぽーと豊洲店」(江東区)、「ビックロ新宿東口店」(新宿区)へと職場を変えつつ、主婦や学生、外国人といった主力層と共に働く。

 働く中で横田氏は、値上げの影響で秋の「感謝祭」が不振に終わった際、実際は多額の内部留保があるにもかかわらず、上層部が「このままでは会社が倒産する。人件費を削りたい」と述べてシフトを削減する場面や、膨大なノルマを課された現場の士気が下がる場面などを目の当たりにする。日本語の不自由な外国人スタッフと日本人スタッフの間で意思疎通が図れず、トラブルが起きることも頻繁にあったという。サービス残業をする社員も依然として存在していたと報告している。

 厳格な守秘義務契約があり、現役社員や元社員に取材を試みても、「機密情報を漏えいすると、損害賠償を請求される」として話さない人が多かったという。取材に応じた一部の学生アルバイトからは、「『バイトを辞めたい』と伝えると、店長から『大学生はいったんユニクロに入ったら、卒業するまで働くことになっている。途中で辞めるのは契約違反だ』と叱られ、今も勤務を続けている」などの証言が得られたとしている。

 横田氏は1年間の体験を踏まえ、柳井社長に「すぐにでも、身分を隠しユニクロの店舗や海外の下請け工場などでアルバイトとして働くことをお勧めする。それこそが、ユニクロにとっての“働き方改革”の第一歩となるかもしれない」と提言している。米国の「GAP」やスペインの「ZARA」としのぎを削るSPA(製造小売り)ブランドになったユニクロだが、その成長の裏にある課題を知りたい人に参考になる。

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