手間をかけて“心に残る”旅を企画 「鉄旅オブザイヤー」優秀ツアーとは杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2018年02月16日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

旅行会社部門 DC賞

『中国鉄道コンチェルト 第5楽章 山口DC特別企画 〜“篠目の奇跡”の目撃者となる。懐かしき客レでめぐる西日本セレナーデ〜3日間』(クラブツーリズム)

 DC賞のDCとは、ディスティネーションキャンペーン(Destination Campaign)の略。JRグループが四季に合わせて実施する方面別旅行キャンペーンだ。17年は冬が京都、春が四国、夏は信州、秋は山口だった。このDCに合わせた旅の中でDC賞が選ばれる。受賞作はクラブツーリズムの鉄道ファン向けツアーシリーズ「鉄道コンチェルト」の17作目。客レは客車列車という意味。

 東京発の2泊3日のツアーだ。SLやまぐち号の新旧客車のすれ違い駅に立ち会い、廃止が決まった三江線に乗車。木次線のトロッコ列車「奥出雲おろち号」、福塩線の秘境駅「備後矢野」を訪れ、駅舎内のそば屋で「福緑阡うどん」を食す。組み合わせが難しい日程、席が限られた列車を確保するなど、旅行会社の強みが表れている。クラブツーリズムはグランプリと本作で2作品が受賞。鉄道に強い旅行会社を証明した。

旅行会社部門 ルーキー賞

『サンライズ出雲で行く 懐かしの京王線車両を訪ねる奥出雲路の旅 一畑電車・絶景おろち号・廃線間近 三江線と世界遺産 石見銀山 4日間』(京王観光)

 ルーキー賞は受賞実績のない旅行会社から選ばれる。企画旅行は、大手ほど規模が大きく融通が利くだろうし、小さくても実績のある会社から安定の良作が現れる……かもしれないから、未受賞の会社にスポットライトを当てようとう趣旨だ。審査に当たってルーキー賞に限定した投票はなく、未受賞の会社の作品から自動的に高得点の作品が選ばれる。

 本作はDC賞のルートと重複している。山陰地方、鉄道で旬のネタといえば、三江線、奥出雲おろち号、一畑電車だ。往路は寝台特急サンライズ出雲、観光に出雲大社、松江城、世界遺産の石見銀山を組み込む。完璧なメニューだ。この要素なら誰もが思い付くだろうし、実際にツアーも開催されただろう。では、なぜこの企画が良いか。それはターゲットがきちんと定められたところだ。

 このツアーのユニークな点は、タイトルにあるように「懐かしの京王線車両を訪ねる」だ。企画催行は京王電鉄系列の京王観光だ。つまり「京王電鉄沿線の皆さん、懐かしの電車を訪ねてみませんか」という切り口になっている。かなりニッチだけど、駅貼りポスターやチラシを見れば、京王電鉄利用者には琴線に響き渡る企画である。旧京王5000系カラーの「一畑電車」を貸切運行し、映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』に出演したデハニ50形の運転体験もある。漫然と山陰へ誘う旅もあり、それなりに成功する中で、京王線にからめた切り口が光った。

photo 京王電鉄ファンの琴線に響く企画(画像提供:鉄旅オブザイヤー実行委員会)

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