クルマのコモディティ化と衝突安全池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2018年02月19日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

莫大なコストがかかる安全性能

 先日マツダが三次試験場で行った衝突テストに立会い、衝突安全性能開発部のエンジニアに取材してきた。

 今回は衝突実験の話から始まっているが、実は衝突実験は安全性能開発の最終確認である。それ以前に目標設定、シナリオ構築、構造化を経て、初めて検証に移る。目標を設定するためには世界中の地域基準と合わせ自社独自の目標を設定する作業が行われる。シナリオを策定するには、全体の機能配分を考えながらどの部分で突っ張って乗員の空間を守り、どの部分でつぶれて衝撃を吸収するかを決定し、その衝撃を分散させつつ受け止めるための全体骨格にふさわしい部材を決めていく。

クルマ各部の特性を機能配分しながら、衝撃吸収する仕組みとシナリオを組み立てていく クルマ各部の特性を機能配分しながら、衝撃吸収する仕組みとシナリオを組み立てていく

 構造化とはシナリオで決めた機能をブレークダウンしつつ、各部の形状や接合法、素材を要求性能に合わせて行く作業である。こうした作業は過去の膨大なデータをベースにコンピュータ支援のシミュレーションで進めていく。

 つまり、衝突実験に入る前に既に膨大なノウハウが投入されているわけである。そうしておよそ大丈夫であろうと思われるクルマができてから初めて衝突実験が行われるのだ。

 実験は1台のクルマに対して20回近く実施される。ドア数やワゴンボディなどのボディバリエーションがあればその分増える。多い場合は100台近い台数のクルマをつぶしながらデータを測定していくのだ。

ダミーは1体数千万円から1億円という高価なもの。しかも実験ごとにオーバーホールが求められる ダミーは1体数千万円から1億円という高価なもの。しかも実験ごとにオーバーホールが求められる

 1体数千万円から、場合によっては1億円もするダミーを乗せ、ダミーの各部に仕込まれた加速度センサーで衝撃を測定していく。マツダの場合、ダミーに仕込まれるセンサー数は60カ所。同じく車体には40カ所、エアバッグセンサーからの信号は21カ所から取得する。これらを合計すると、約250カ所ものデータを衝突の時間軸の中で取っていく。併せて16台の高速度カメラで秒間100コマのデータを収集する。これだけでもとんでもない金がかかる。

 しかも衝突実験でつぶされるのは開発中のプロトタイプ。つまり量産モデルのように安くない。高価な試作部品だらけのプロトタイプの値段については、はっきりしたことはどのメーカーも言わないが、業界のウワサでは1台3000万円コースという。ハイブリッドなら5000万円、プラグインハイブリッドなら7500万円とも聞く。これを20台からつぶすのである。

 言い募るのも野暮な話だが、衝突実験の施設も必要だ。これも50億円くらいは軽くかかる設備である。既に莫大なノウハウを溜め込んでいる自動車メーカーの開発費でこれなのだ。ゼロから手探りでクルマを作ったら一体いくらかかるのか見当もつかない。

およそ250チャンネルのデータを100分の1単位で計測する およそ250チャンネルのデータを100分の1単位で計測する

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