小田急電鉄の路線図はどこが変わったのか路線図マニアが読み解く(3/3 ページ)

» 2018年02月22日 07時30分 公開
[井上マサキITmedia]
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「見やすさ」と「分かりやすさ」の戦い

 視認性を向上させるためには、「色数を減らす」のも1つの手段だ。小田急の路線図も、急行と通勤急行をオレンジ、準急と通勤準急を緑へ統一することで、色数を減らしている。それぞれの区別は太線・細線でつけるようになった。

上:旧路線図、下:新路線図。以前は5色あった列車種別が、多摩急行の廃止に併せて4色に。「急行」&「通勤急行」、「準急」&「通勤準急」は色を統一し、線の太さで区別する

 しかし、多くの路線図は同じ色=同じ路線で描かれている。これまでも「急行(赤)」と「多摩急行(ピンク)」は別の色だった。そのため、乗客の中には「同じ色なのにどうして2種類あるの?」と戸惑う人もいるかもしれない。同じ色=同じ列車種別という「新ルール」の追加に気付く必要があるからだ。

 では単純に色数を増やせばよかったのか……というと、これもまた悩ましい。色ばかり増えて虹のようになれば目がチカチカしてしまう。さらに前述の相互接続まで考えるとなれば大変だ。

 1つの解決策として、例えば東武鉄道の東武東上線停車駅案内では、東横線や副都心線の列車種別を単一色のグラデーションで表現している。これなら色数が発散することはない。

東武東上線停車駅案内(東武鉄道)。色が変わるポイントで線をギュッと絞る表現が面白いが、例えば「東横線の通勤特急は副都心線に入ると急行なの? 通勤急行なの?」という新たな疑問も……

 路線図は「見やすさ」と「分かりやすさ」の戦いでもある。見やすさを追求してシンプルにすれば情報が抜け落ち、分かりやすさを追求して情報を盛り込めば視認性が落ちてしまう。両立を目指すか、どちらかを優先するか。路線図をつぶさに観察すると、作り手の意図を味わうことができるのだ。

井上マサキ氏のプロフィール:

 1975年宮城県石巻市生まれ。大手SIerでシステムエンジニアとして15年勤務したのち、フリーライターに転身。IT、お笑い、育児など幅広く執筆する傍ら、路線図研究家としても活動。メディア出演のほか、ライター西村まさゆき氏とのイベント「路線図ナイト」では毎回100人超の観客と国内外の路線図を愛でるなどしている。好きな路線図はロンドン地下鉄、プラハ地下鉄、福岡市交通局。公式サイト:inoue-masaki.com


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