「街のビール屋さんを文化にしたい」 100店舗出店に燃える多店舗出店の苦しみを乗り越える(4/4 ページ)

» 2018年03月01日 06時00分 公開
[昆清徳ITmedia]
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従業員との意思疎通の難しさ

 阿佐谷の2号店以降、能村氏は毎年のように新店を出してきたが、各店舗が独自の運営方針をとるようになった結果、売り上げが頭打ちになるという問題が起きた。飲食業界でキャリアを積んできたベテラン従業員も増えてきたため、各人の裁量を尊重したことがマイナスに作用したのだ。

 「同じ種類のビールなのに店舗ごとに味がバラバラになってしまったんです。より多くのお客さんに好まれるものではなく、各店舗の醸造家が自分の好きなものをつくるようになってしまいました。サービスの面でも自己流にこだわるようになり、私の指示に耳を貸さなくなることもありました」

 これは、多くの飲食店が多店舗展開する際に直面する課題だろう。創業者が生み出したレシピや接客方法を従業員と共有することの難しさだ。従業員の数が少ないうちはお互いが顔見知りの関係なので特別な工夫をしなくても創業者の考えが自然と伝わる。

 しかし、従業員が増えてくると別の工夫が必要になる。よくとられる手法はマニュアル化を推進することだ。均一なサービスを提供できるかもしれないが、押し付けられた従業員のモチベーションは低下してしまう。

 能村氏は解決策として外部から経営のプロを招くことを決めた。経営戦略や人事の問題を一人で抱え込むことに限界を感じたためだ。現在は二人三脚で各店舗の担当者に創業の理念や運営方法について説明してまわっている。

 自分が満足する味やサービスにこだわりたいのなら無理に多店舗展開する必要はない。人事や従業員との意思疎通に頭を悩ませることからも解放される。しかし、能村氏はあくまで「100店舗」にこだわる。それは「街のビール屋さんを文化にしたい」という思いが嘘ではないからだろう。

 17年11月に8店舗目となる「ビール工房新宿」がオープンした。場所は高層ビルが並ぶエリアだ。これまでの店舗とは違ってオフィスビル内に店を構える。人が自然と集まる場所にしたいということでテナント側から出店要請があったという。

 「私にとっても新しい挑戦です」

 ビールを愛する経営者の夢は膨らむばかりだ。

photo 1号店の高円寺麦酒工房
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