東京メトロの路線図に潜む「しま模様」の謎あなたの知らない路線図の世界(1/2 ページ)

» 2018年03月26日 07時30分 公開
[井上マサキITmedia]

 山手線は緑、東海道新幹線は青、丸ノ内線は赤。路線図を彩っているのは、路線ごとに定められた「ラインカラー」だ。

 特に多くの地下鉄路線が入り組む大都市圏の路線図は、ラインカラーが百花繚乱。例えば東京メトロの路線図は、東京メトロ9路線と都営地下鉄4路線を色分けし、JRや私鉄も合わせて18種類の線で構成されている。カラフルな線のうごめきを眺めていると時間を忘れてしまう。

東京メトロの簡易版路線図(東京メトロ)

 しかし、東京メトロには、ちょっと違ったタイプの路線図があることをご存じだろうか。運賃表や英語表記の路線図とともに、各駅の券売機付近に掲示されているものだ。

この駅では券売機の左隣に掲示されている……
この路線図

 登場する路線は東京メトロ9路線のみに絞ってあり、色や形は一般的に用いられている東京メトロの路線図と異なっている。大きな特徴は、路線図をじっと見つめていると気付く「しま模様」だ。

 用途としては新宿三丁目駅からの運賃を記載した「きっぷ運賃表」になるのだが、券売機の上部にはもっと大きな運賃表が掲示されているし、なぜわざわざ異なるデザインの路線図が用意されているのか。読者の皆さんにはお分かりになるだろうか?

色に頼らずに路線を区別する

 実はこの路線図、色覚にハンディキャップがあっても路線を区別できるように描かれた「視覚配慮運賃表」なのである。

 先天的な遺伝子要因により色の区別がつきにくい「色弱者」は、日本国内に約300万人いるとされ、特に男性は約20人に1人が該当するといわれている。多くの路線図は路線の識別に色を用いており、色弱者にとってカラフルな路線図を読み解くのは至難の業だ。

 この対策として、東京メトロの路線図は「路線が重なる部分を白く縁取る」「路線名の併記を増やす」といった配慮を行っている。ただ、ラインカラーの組合せによっては、どうしても似た色に見えてしまう箇所もある。

色弱者の視界をシミュレーションしたもの。左:C型色覚(一般色覚)、右:P型色覚(色弱者)。P型色覚では南北線と日比谷線が同じグレーに見えてしまい、路線の区別が難しいことが分かる

 「視覚配慮運賃表」では、路線の色と線種が大きく変わっている。全ての路線を黒く縁取り、丸ノ内線や南北線には「しま模様」を入れた。同系色の路線と交わっても、路線の区別ができるようになっているのだ。

丸ノ内線、半蔵門線、南北線、副都心線にはしま模様が入っている
左:C型色覚(一般色覚)、右:P型色覚(色弱者)。先ほどとほぼ同じエリアで比較してみた。南北線と日比谷線は「しま模様の有無」で区別できる。通常の路線図に比べ、路線名を併記している箇所も多い

 また、路線名の一覧にはラインカラーの色を付記している。「レッドが丸ノ内線」など、一般色覚者と意識を共有するためのものだ。

銀座線(オレンジ)、有楽町線(ゴールド)など、路線名に色の名前が付記されている

 こうした色覚の違いをデザインで吸収する取り組みは、「カラーユニバーサルデザイン(CUD)」と呼ばれている。ちなみに都営地下鉄も東京メトロと同様に、券売機付近にCUDに配慮した運賃表が掲示されている。

都営地下鉄にも同じくCUDに配慮した路線図が用意されている

国から表彰された路線図

 東京メトロや都営地下鉄には、「一般的な路線図」と「視覚に配慮した路線図」の2種類が用意されていた。視覚に配慮した路線図はバリアフリーの一環ではあるが、「別のものを使う」という段階で1つのバリアが生まれているとも言える。どうせなら、誰でも使える1枚の路線図にしてしまいたい。

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