世界で認められている「免疫療法」が、日本で「インチキ」になる背景スピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2018年05月15日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

「免疫療法」と聞くだけで、拒絶反応

 確かに、冒頭に登場したAさんも、もともと有名がん治療機関で化学療法を受けていたところ、友人やセカンドオピニオンの勧めもあって、瀬田クリニックで免疫療法を受け始めたのだが、そこから両方の医師が綿密に連携して、互いの効果を経過観察しながら治療にあたった。このように、化学療法と免疫療法を二者択一で選ばせるのではなく、互いのいいところを引き出し、補完し合うことが、Aさんの「奇跡の回復」につながったのだ。

 だが、残念ながらこのようなケースはまだ少なく、Aさんの友人たちの担当医のように免疫療法という響きを聞くだけで、拒絶反応を示すのが大半だ。

 「自分たちがやっている治療や、投与している抗がん剤を否定にされているような気になってしまうのでしょう。実際、週刊誌などで免疫療法バッシングをしている方をみると、ほぼ例外なく腫瘍内科、つまり抗がん剤の専門医。我々はこれまで一度だって、抗がん剤を否定するようなことを言ったことがなく、互いのいいところを生かして、ひとりでも多くの患者さんを救いたいと思っているだけなのに残念ですね」(後藤院長)

 この断絶をさらに深くしたのが、メディアである。週刊誌の中吊り広告の見出しなどを想像してもらえば分かりやすい、どうしても多くの人の関心をひくために、「薬は効かない」「医者にダマされるな」「がんは放っておけ」などの極論に走りがちだからだ。

 もちろん、断絶してしまうだけの土壌が、日本の医療界にあることも忘れてはならない。先ほど中村氏のコメントで引用したように、欧米、さらには中国まで医療界をあげて免疫療法の研究に力をいれているが、日本の大学病院や医学部でもそのような動きはおろか、専門的な免疫療法について教える体制もない。

 自分たちが大学で習わず、盛んに研究もされていないものを患者さんから尋ねられても、答えられるわけがないし、勧められるわけではない。そうなると、「怪しい治療だから止めたほうがいい」と言うのが安全だ。

 だが、このような言葉に従っているだけでは、Aさんの友人のように悔いを残すことなる。当然だ。海外へ行けば、まだ受けることができる治療があるのに、日本では「そんなおかしな気は起こさず、黙って死を受け入れなさい」と言われているのに等しいからだ。

 そうなると、生きる希望を捨てたくない患者はどうするかというと、病院を飛び出して、自力で別の手段を探すしかない。その弱みにつけこんでくるのが、「怪しい免疫療法」をうたう人々なのだ。

 では、そのような状況に追いやられた時、我々はどうやって「まともな免疫療法」を探し出せばいいのか。専門知識がなくてもある程度の見極めはできる、と後藤院長は言う。

 「少し前に捕まった怪しいクリニックの医師は循環器専門医だった。心臓にはがんはありませんので、美容外科とか、がん領域ではない医師の施す治療はおかしいと思ったほうがいい。また、がん医療の世界で何十年でもやっていれば、医師同士互いに会ったことはなくても、名前くらいは知っているものです。がん専門医に聞いてみて、『それ誰?』という医師のいるようなところは止めたほうがいいでしょう」(後藤院長)

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