純利益2.5兆円のトヨタが持つ危機感池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2018年05月21日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

突き抜けられない原因は販売経費

 原価改善は評価が難しい。部品の共通化や規格化によってサプライヤーに大きな負担なく改善される場合もあるが、もちろんそればかりではない。厳しい値下げ要求を受ける下請けの恨み節も出る。難しいのは、だからと言って、その手綱を緩めれば親亀がこける。親亀がこけたら子亀であるサプライヤーも無事では済まない。側から見れば2.5兆円も当期純利益を出しているトヨタがこけるわけがないだろうと思うが、トヨタのどの社員に聞いても安泰だと思っているのは1人もいない。国内の自動車メーカーの中で恐らく最も強く危機感を持っているのがトヨタであり、筆者から見るとその危機感こそがトヨタの強みである。

 諸経費削減の要素をより詳細にみると、経費の削減で2100億円プラスになっており、これに対して労務費がマイナス700億円。これは人件費が上がりつつある現状ではやむを得ないし、日本の労働賃金の安さの悲劇的な現状に鑑みるに日本全体のことを考えればむしろ肯定すべき要素である。

 諸経費削減の2つ目の要素、減価償却については、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)を中心として設備投資を積極的に行った結果だ。設備投資はお金を使ったその年に全てが経費になるわけではなく、機械なら機械の残存価値がいったん資産に計上される。1000万円の機械を買ったならそれは消費ではなく、1000万円の資産を購入したことになり、資産として帳簿に乗るのだ。その機械が古くなって価値が下がっていく分が毎年減価償却として経費になる。乱暴に単純化するとこういうことだ。現金の出入りで全てを支払ってトントンの場合、減価償却で資産が減る分はバランスシート上まるまる赤字になる。もうかっている時なら利益が減って、課税対象額が減る分ありがたいが、もうかっていない時は赤字が膨らむ。個人のイメージで言えばローンで払っている感覚に近い。

 大規模な投資を行った後の数年(設備の種類ごとに年数は決まっている)は否応なくこの減価償却によって支出項目が増えるので、設備投資のマイナス分の評価は、その設備が売り上げに正しく貢献しているかどうかで考える必要がある。今のところTNGAは機能しているように思われるため、この減価償却は肯定されるべきだと筆者は思う。

 3つ目は研究開発費だ。環境や省燃費の規制が厳しさを増す中、また電動化やコネクティッド、自動運転など高額な投資が求められる最中であることを考えると、この項目は増えていないとおかしい。むしろ研究開発費のみに限って言えば、もっと増えても良いのではないか? 減価償却が現在に向けた過去の投資の指標だとすれば、研究開発費は、未来に向けた現在の投資の指標だ。

 さて、為替変動と原価改善努力に加え、諸経費の減少の3項目で出したプラスを何がマイナスにしているかと見れば、一目瞭然、販売面での影響となる。

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