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3年以内に辞める若手がハマる「やりたいこと」のワナ人事はつらいよ(1/2 ページ)

» 2018年05月29日 14時00分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

〜売り手市場が生む「若手のミスマッチ」時代:〜:

 空前の売り手市場で、人事は「若手の採用の難しさ」に直面している。優秀な人材はますます採りにくくなり、コストをかけて採用した人材も「ミスマッチ」を理由に辞めていく……。

 「ミスマッチ」時代に、何が起こっているのか。その“逆風”の中、人事は何ができるのだろうか。


 「また若手が辞めた」「若い人材が定着しない」という悩みに頭を抱えている人事担当者は少なくない。「最近の若者は……」というフレーズはいつの時代にもあるものだが、実は3年目離職率はここ20年ほど3割前後で推移しており、今に限った話ではない。しかし空前の売り手市場が、「若手が辞める」事態を重くしているのだ。

 今、人事の現場で何が起こっているのか。それを聞きに、東京・銀座のバーに向かった。店主は「やっさん」こと鈴木康弘さん。元リクルートグループで外資系IT企業の採用支援と第2新卒のキャリア支援を行っていた“採用のプロ”だ。リクルートを退職し、ベンチャー企業で働いたあと、東池袋にバー「とこなつ家」をオープン。当初は普通のバーだったが、学生や若いビジネスパーソンの就職相談に乗るうちに、「転職バー」との評判が高まった。

 現在はとこなつ家をスタッフに任せ、銀座で2号店を開いている。鈴木さんのもとには日夜、就職相談者だけではなく人事担当者も集まってくる。人事に関するグチや相談は、なかなか社内にも社外にも打ち明けにくい。誰もが同じ悩みを抱え、人事の“共通言語”を知っている人ばかりのバーだからこそ、胸の内を明かせることがある……というわけだ。つまり鈴木さんは、「人事の最前線」の目撃者でもある。

悩める若手や人事担当者が集うバーの店主・鈴木康弘さん

キラキラした「やりたいこと」のワナ

 今、採用の現場でどんなことが起こっているのか。鈴木さんはズバリ、今の若手が「やりたいこと探しのワナに陥り、ミスマッチに苦しむことになっている」と話す。

 「若者のほとんどに、やりたい仕事なんてないんですよ。でもメディアの影響で、『やりたいことがなければいけない』と若者も人事も思い込まされている。特にここ数年はその傾向が顕著だと感じます。やりたい仕事なんて、本来は一生かけて分かっていくもの。おじさんだって分かっていません(笑)。むしろ人より『うまくできること』『うまくこなせること』の方が重要だと思うんですがね」

 Webを検索すれば、「やりたいこと」を会社の中で実現した社会人が取り上げられている。特に求人メディアでは顕著だ。若手にも大きな裁量権が与えられるベンチャーで活躍する若手を見るうちに、「キラキラとやりたいことをやって働く自分」というイメージばかりが大きくなっていくのだという。

 「就職活動や転職活動の“自己分析あるある”ですが、何に向いているかの『適正』と、何をやりたいかの『志向性』のボタンの掛け違いが起こっている。やりたい仕事と向いている仕事が一致することはそうそうありません。従来型の日本企業の方に向いている人がベンチャーを目指したり、創造性があまりないのに広告代理店に入ろうとしたりする。昔からそういう若者はいましたが、近年さらにその傾向が強まっている。それがミスマッチの要因になっています」

 売り手市場も、「やりたいこと」を探してしまう追い風になっている。就職氷河期やリーマンショックのころと比べて、採用基準がグッと下がった。資質や能力の面で向いていない人材でも、少しの面接対策で希望の会社に入れてしまうのだという。

 「空前の売り手市場だったバブル世代は今、『使えない』と言われています。それは本来だったらその会社に入れるはずがない人たちが入社していたから。近年の有効求人倍率はバブル世代に迫ってきていて、バブル期に人材の質が近づきつつある。社風や職種のミスマッチならともかく、会社が求めている業務遂行能力を満たしていないというミスマッチは、結果的に人を不幸にします」

 転職口コミサイト「Vorkers」の15年調査によると、平成生まれの退職理由ランキングの1位は「キャリア成長が望めない」。3位に「仕事内容のミスマッチ」、5位には「企業の方針、組織体制、社風などとのミスマッチ」が並ぶ。入社前の期待が大きすぎたことで、余計落差が大きくなっているケースも中にはあるだろう。

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