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3年以内に辞める若手がハマる「やりたいこと」のワナ人事はつらいよ(2/2 ページ)

» 2018年05月29日 14時00分 公開
[青柳美帆子ITmedia]
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数年でいなくなる若手の姿

 「やりたいこと探しのワナ」にハマった若手が、自分の適性と合っていない会社に入社した場合、どういうことが起こってしまうのか。

 「『やりたいことを考えよう』というメッセージは発信されているけれど、やりたいことを実行に移す教育はされていません。企業の中でやりたいことをやるためには、ほぼ確実にどこかで社内や社外との競争をする必要が出てくる。でも、さまざまなマーケティングデータを見ると、若い世代のストレス耐性は下がってきているし、他者との競争を避けるようにもなってきている。そうなると『やりたいことができない』というストレスがただ高まっていくようになります」

「やりたいこと」を持っている若手が辞めていく(画像はイメージです)

 鈴木さんが語る「若手像」をまとめてみよう。就職活動は順調に進み、十数社から内定を得た。ベンチャー企業に心を引かれながらも、第1希望の日系大手企業への入社を決めた。内定式後にも引き抜きの声は絶えず、同期懇親会で話が盛り上がった男が1人いつの間にか消えていた。それでも、大企業で活躍することに魅力を感じた。

 しかし1年と数カ月後、期待は失望に変わっていた。大きな志を抱いて入ってきたのに、担当できるのは下積みのような仕事ばかり。やりたいことを提案しようにも、やり方が分からない。日々やりたくないことをやっているのでストレスはたまっていく。そんな日々を過ごしている時に、求人情報サイトで活躍している同年代のインタビューを読む。

 「ほかの会社に行ったらいいことがあるかもしれない……」そう思って転職活動を始める。とんとん拍子に選考が進み、内定が出る。上司からは一度引き留めがあったが、意志が変わらないことを告げると引き下がった。来月からは“新天地”で自分のやりたいことができるようになるはずだ――。

 バーの常連であるベテランの採用コンサルタントのAさんは、こうした理由で転職していく若手も、同じ理由で転職してくる若手も見てきている。

 「転職マーケットに職歴が短い人が増えてきています。転職は以前よりも普通になってきていますし、今は人手不足なので、1年以内に辞めている若手も採用します。ただ、そういった職歴が2社以上並んでくるようになると厳しい。『将来のために経験を積んでおく』というのは分からないということですから。でも、転職エージェントはそういった指摘はしません。耳障りのいい言葉だけ言って、ベンチャーに送り込んでしまうんですね」(Aさん)

 若手が抜ければ、また新しく採用しなければいけない。面接に来た人材はややミスマッチを起こす不安もあるが、それでも採用しなければ現場がまわらない。配属後、現場から「どうしてあんな人を採用したんだ」と言われ、板挟みになる……。Aさんは「いろいろな企業が採用に力を入れていますが、本当に採用がうまくいってるのはほんの一握りでしょう」と話す。

 ほんの一握りに入らない大多数の人事担当者は、苦しい日々を送っている。もちろん個々の事情はあれど、全体的な採用トレンドが人事にとっての“逆風”だ。

 鈴木さんはこう話す。「今、人事の仕事はめちゃくちゃキツくなっています。その中で考えてほしいのは、『いい人材をどうやって採るか』ではない。この逆風の中でこそ、そこそこの人材をどう教育し、一流の仕事ができる人材に育てるかが問われるのではないでしょうか」

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