あなたが住んでいる地域のどこにお寺があるか、知っているだろうか? 特に都市部では、昔と比べて日常生活の中で「寺」の存在を感じることが少なくなった。
そういった環境の変化を受け止め、新しい切り口で人々の生活に寄り添う挑戦をしている寺がある。創建400年の伝統がある築地本願寺(東京都中央区)だ。「開かれたお寺」を目指す「『寺と』プロジェクト」を立ち上げた。銀座に「サテライトテンプル」を設けたり、敷地内にカフェをオープンしたりと、従来の「お寺」像にとらわれない取り組みを次々と打ち出している。
その仕掛け人が、浄土真宗本願寺派築地本願寺 代表役員 宗務長の安永雄玄さん。事務方のトップでありながら、コンサルティング会社の経営者という顔も持つ。「“寺離れ”が進んでいるのが現状。幅広い層の人たちと新しい結び付きを築いていかなければ」と語る安永さんに、プロジェクトへの思いを聞いた。
運河を流れる水のように、たくさんの人が入ってくる。あっという間に境内が人で埋め尽くされる。そんな様子を切り取った映像が築地本願寺のインフォメーションセンターで流れていた。今から80年以上前、1935年に現築地本願寺完成を祝して行われた落成慶讃法要の様子だ。
昔は寺が地域コミュニティーの中心的存在だった。どこの地域でも、それをなんとなくイメージできる人は多いだろう。江戸時代から続く檀家(だんか)制度により、寺と家の結び付きは強固だった。
それが、都心への人口集中が進んだ高度成長期から、大きく変わり始めた。生まれ育った地域では寺との付き合いがあっても、都会に出てくるとその関係は希薄になる。檀家を支えていた家制度は、核家族化によって機能しなくなり、地方の寺は衰退していく。寺の大きな役割だった葬儀や法事も、生活スタイルの変化に伴って多様化が進む。
「80年前の風景は、今はありません。大規模な催しでも、境内が人で埋め尽くされるということはなかなか難しいのが現状です」と安永さんは話す。
帰属意識を持たない人が増え、“個人の時代”になった。寺と個人の結び付きが弱くなったいま、これまでと同じことをしていても、門徒の数は減っていくだけだ。「さまざまな人のニーズを満たして、新しい結び付きを作る必要があるのです」
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