明治2年(1870年)に創業した富山県の老舗どら焼き店「中尾清月堂」(高岡市)は7月30日、単語を構成する文字を並べ替えても、人間が問題なく読めてしまう「タイポグリセミア現象」を利用した広告戦略の成果を発表した。2018年3月にどら焼きをリニューアルした際に、同現象を取り入れた広告を展開。改良した点をクイズで答える企画も実施したところ、県内のみで販売したにもかかわらず、10日間で5万9200個を売り上げたという。
展開した広告は「みまなさに だじいな おらしせ。 こたのび なかお せいげどつう が ぜたっい に ばれない ように どやらき の リニュアール を おなこい ました」というもの。看板商品のどら焼き「清月」の改良を告知するもので、同商品のパッケージにも使用した。
正しくは「みなさまに だいじな おしらせ。 このたび なかおせいげつどう が ぜったい に ばれない ように どらやき の リニューアル を おこない ました」だ。だが、人間の認知の癖により、受け手は問題なく前述の広告文を読めてしまうのだから不思議だ。
広告文はSNSなどで「面白い!」と話題になり、改良した点をクイズで答えるキャンペーンには3000件を超える投稿が集まった。
改良では「清月」の外観は全く変えず、細かな工夫を凝らして品質を高めた。
具体的な変更点は、(1)電気からガスで焼き上げる方法に変え、より均一な焼き加減を実現した、(2)北海道産小豆と絹手亡(きぬてぼう/比較的新しい品種で、白いあんを生成できる)をブレンドしたあんに変更した、(3)パッケージに窒素を封入し、品種の維持性能を高めた――の3点など。
だが、顧客からは「生地やあんが変わった」「包装方法が変わった」などの意見が届き、“ぜったい に ばれない”はずの変更点を言い当てられたという。
どら焼きの売り上げと認知度の向上に大きく貢献したこの広告は7月中旬、富山県内の優秀なデザインに送られる「富山ADC賞」を受賞。デザイン業界でも高い評価を獲得した。
制作を手掛けたアートディレクターの羽田純氏は「実は今回のリニューアルは、中尾清月堂の社運を賭けた一大事業でした。語順を変える単純な仕掛けですが、じっくり文章を読ませることができ、結果、たくさんの方にどら焼きを味わってもらう機会になりました」とコメントしている。
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