箱根に100億円投資、小田急が挑む「国際観光地競争」杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)

» 2018年08月03日 07時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

西武グループとのサービス提携が課題

 ここまでの「設備投資カタログ」はとても魅力的だ。鉄道好きとしては箱根登山鉄道のモハ1形の保存がされるか気になるところだけど、それはさておき、数年後の箱根は今までの箱根とは違う「新しい箱根」だ。箱根観光は2015年5月から16年7月までの噴火警戒によってつまづいたとはいえ、それ以外の時期は順調に観光客を増やしてきた。

 17年度の箱根観光客数は3年ぶりに2000万人を突破し2015万人となった。このうち宿泊利用者は約500万人で、その1割が訪日観光客となっている。小田急が発売する箱根フリーパスも17年に95万枚を販売し過去最高を記録した。このうち訪日観光客は3割程度とみられるという。

 小田急グループは今回の投資施策によって、箱根フリーパスの年間100万枚突破を目標としている。もっとも、現在の勢いならば達成は時間の問題だ。もし頭打ちになるとすれば、乗り物の輸送能力不足だけではなく、宿泊設備の不足も課題になるだろう。そしてもう一つ、“いちげんさん”の観光客が一巡して、リピーターを獲得できなくなったときだ。

 今回の発表内容で気になることがある。同じ箱根地域で営業する西武グループ、伊豆箱根鉄道との連携に新しい施策がなかったことだ。特に「小田急グループ発行のフリーパスで伊豆箱根バスに乗れない」「伊豆箱根バス発行のフリーパスで箱根登山バスに乗れない」という不便が解消されていない。

 これはとても残念なことだし、箱根を世界の観光地のステージへと発展させる上で障害になる恐れもある。 交通機関が分かりにくいことは致命的な欠陥だ。特に訪日観光客にとっては理解しがたい。フリーパスを持っているにもかかわらず「そのチケットではこのバスには乗れないよ」と扉を閉められたら、誰だっていい気分ではない。

 観光地では、そうした「小さな嫌な思い」がリピーターを遠ざける。「もう箱根はいいや。他にも観光地はあるからね」となる。あるいは「次からマイカーやレンタカーにしよう」となる。どちらにしても小田急箱根グループの客ではなくなってしまう。

 交通機関が分かりにくいといえば、東京の地下鉄もそうだ。しかし、IC乗車券や共通フリーきっぷがあれば、取りあえず自動改札機が閉まることはない。後で交通費が高いとは感じても、疎外感はない。しかし、箱根のバスはダメだ。箱根には小田急箱根グループと伊豆箱根鉄道グループがあって縄張りが重なっている。そんな事情は国内観光客にも分かりづらい。

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