戸舘さんと小林さん(現館長)の同い年コンビによる「聖域なき改革」はお土産コーナーにも及ぶ。現在は年間収入の1割にも達するという土産品の目玉は、奇怪な深海生物であるオオグソクムシの粉末を入れ込んだ「超グソクムシ煎餅」やチョコ菓子をカピバラの糞に見たてた「カピバラの落し物」などの強烈なコンセプトが売りの菓子類だ。
「小林さんの人脈でメーカーと直につながって進めているプロジェクトです。とがったモノばかりを出していますが、小林さんがとがった人間なので仕方ありません」
小林さんの裏方に徹する戸舘さんは、卸業者を介して仕入れる一般的な土産品を中心に幅広く担当。売っている物品は可愛らしいが、戸舘さんは裏で厳しさを発揮している。
「以前はある会社にお土産品の仕入れを一任していました。でも、うちにはイルカがいないのにイルカのネックレスなどをやたらに置く。改善してほしいと言うと『口を出すな』といった態度です。その会社に委託するのはやめて、自分たちで仕入れることにしました」
大学院卒の学芸員である戸舘さん。総務部長と広報部長と販売部長を兼ねているようなもので、まさに「雑芸員」である。ここまで徹底して取り組む背景にあるのは「指定管理業者」としての危機感だ。竹島水族館の飼育員たちは指定管理業者として蒲郡市から水族館の運営を委託されている。
「新卒で働いていた県立の水族館では、自治体側の上長が変わって締め付けがきつくなった経験をしました。指定管理を外されることだってありえます」
戸舘さんたちは公務員ではないため、大好きな職場から放り出されてしまうリスクと隣り合わせなのだ。5年ごとの契約が更新される保証はどこにもない。収支の面でもスタッフの魅力でも「余人をもって代えがたい」状況を保っておく必要がある。だからこそ、戸舘さんは今日も「小言の多いお母さん」を演じ続けるのだ。
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