5年後の2008年、実力を培った戸舘さんに飛躍する機会が訪れた。当時の竹島水族館で戸舘さんと同じような立場だった旧知の小林さんから「うちに来ないか。ただし、入社試験は受けてね」と誘われたのだ。
「どちらの水族館のほうがよりひどい状況なのか、愚痴を言い合っていた仲でした。竹島水族館はお客さんが最も少ないときでも年間12万人。僕が働いていた水族館の倍は入っています。でも、運営のやり方はめちゃくちゃだなと思いました。消耗品や魚のエサに至るまで、コストを一切気にしないのです」
例えば、各自の机に敷く透明の板。8千円もするガラス板を購入していた。戸舘さんはホームセンターで販売しているプラスチック板に替えればコストは10分の1になると指摘。また、魚にあげるエサの量は明らかに多すぎて、エサの残りが水槽の底にたまって水質悪化につながっていた。
「放っておけばそのうち全部食べるよ、と先輩たちは言うんです。それで良いわけがありません。徹底的に見直してエサの量を適正にして、年間100万円ぐらいはコストを削減しました」
雇用契約を明確にするなど「守り」のためにやるべきことは他にいくらでもあった。次に、戸舘さんは広報活動や土産品販売の強化といった「攻め」に手を付ける。
「イベントの数を倍以上にしました。うちのような小さな水族館は、やる気になればイベントはバンバン打てるんです。例えば、『七夕の夢をかなえよう会』。笹の枝をどこかから切ってきて設置して、竹島水族館内でかなえられそうな願い事を書いてもらうだけ。水槽で泳いでみたい、タカアシガニを背負ってみたい、などは簡単にかなえてあげられます。館内の裏側であるバックヤードをご案内するツアーも毎月実施するようにしました」
戸舘さんによれば、イベントの増加はコアな客の満足度を上げる以外にも意味がある。地元紙などのメディアに取り上げてもらいやすくなるのだ。確かに、珍しい生き物の飼育を始めたといったネタは多くは提供できないが、手づくりイベントならばたくさん実施できるし、ほのぼのとしたニュースになりやすい。
水族館のパンフレットも作り直した。竹島水族館のメインの顧客層は何と言っても子どもだ。子どもが興味を持ってくれるような内容にする必要がある。
「ただし、子どもを連れてくるのは親です。そこにアプローチしなければなりません。近隣の学校や教育委員会に連絡して、パンフレットを10万部以上配布しました。イオンモールで配布したときは使用期限なしの割引券を付けたこともあります。お母さんたちの財布に入れてもらい、遊びに行くときの選択肢に入れてもらうことが大事なんです」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング