人口8万人ほどの愛知県蒲郡(がまごおり)市にある竹島水族館は、お金なし、知名度なし、人気生物なしという、いわゆる弱小水族館だ。だが、条件面だけ見れば「ショボい」としか言いようのないこの水族館は、わずか8年前は12万人だった来場者数を40万人まで「V字回復」させた。その理由はどこにあるのか。個性集団とも言える飼育員たちの「チームワーク」と「仕事観」に迫り、組織活性化のヒントを探る――。
人気爆発中の竹島水族館には「お母さん」がいる。改革の立役者であり、抜群の企画力と飼育技術で水族館を強くけん引する館長の小林龍二さん(37歳)ではない。その裏方に回って「みんながやらない仕事」を引き受けて組織を支えてきた副館長の戸舘真人さん(38歳)だ。
「僕は小言の多いお母さん役ですね。常に水族館全体のことを見ているので、できていないことに気付くんです。当然、小林さんも気付いています。いつまでも改善できないとお父さん役の彼が怒ります。すごく怖いので僕も嫌です。だから、その前に僕が口うるさくなっています」
実生活の戸舘さんは愛する妻と娘がいる心優しいお父さんだ。広報担当でもあり、筆者を含めた外部の人間と気さくに意見交換をしてくれる。そんな彼があえて「小言の多いお母さん」役を自任しているのは2つの理由がある。水族館という空間への尽きぬ情熱と、その大切な場を失ってしまうかもしれないことへの危機感だ。
戸舘さんが水族館で働こうと決めたのは、なんと小学校5年生のとき。神奈川県相模原市で育った彼は幼いころから川遊びに親しみ、地元の「相模川ふれあい科学館」に通っていた。
「ある日に水族館で働くことを決意して、どうすればいいのかを聞くために1人で電車に乗って江ノ島水族館(現・新江ノ島水族館。神奈川県藤沢市)に行きました。たまたま駅前でチラシを配っていた水族館員の方に話しかけることができたんです」
小学生とは思えない行動力である。その館員からは妙に具体的なアドバイスをもらうことができた。高校までは普通科で学んだうえで東海大学の海洋学部に入れ、というものだ。
「おそらくその人が卒業生だったのでしょう」
戸舘さんは笑うが、根拠のないアドバイスではない。東海大学海洋学部(静岡県清水市)がフィールドとするのは駿河湾。最深部で2500メートルという日本一の深さで、土佐湾に次ぎ日本で2番目に魚種が多い湾だと戸舘さんは説明する。
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