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次のクルマは「自動運転」になるのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2018年09月10日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

レベル3への道

 さて、自動車専用道路での自動運転はこれまで述べた通り、実現へのカウントダウン状態だが、多くの人が望む、全部お任せのマイタクシーの開発は一体どうなっているのか?

 これに関しては最新の開発手法を理解することから始めなくてはならない。今、自動運転はシミュレーションとコネクティッドにほぼ全てがかかっている。

 通常、人がクルマを運転している時は、常に「認知」「判断」「操作」の3つの段階を経ている。先ほど書いたレベル2の運転支援は、このうち「操作」のみを自動化することをいう。だから「認知」と「判断」の責任を全てドライバーが負わなくてはならない。マイタクシー化にはこれを自動化する必要がある。

 まずは人の能力と同等以上の「認知」ができなくては話にならない。現在、裏面照射型撮像素子の導入などカメラ性能の飛躍的向上によって、光量の少ない場面においては、人より優れた「認知」ができるようになってきた。しかしまだ逆光などのカメラが不利な状況では、この「認知」が万全ではない。そこで特性の異なるセンサー、例えば、レーダーやソナーなどを使うのだ。得意ジャンルの異なる数種類のセンサーを組み合わせて不利を補完し合う。併せて自動運転に特化した地図や地形データとGPSを組み合わせることで、ようやく人の「認知」に追いつくようになった。

 ただしセンサー種類が増えることは当然コストアップにつながる。アウディもフラッグシップのA8だからこそ物量作戦を展開できたわけで、庶民がマイタクシーを手に入れるためには、やはりカメラだけでほぼ大丈夫なくらいまで技術が進まないと難しい。

 次に「判断」はどうか? 現状最大の問題はここである。自動車専用道路の場合、全てのクルマは同一方向に進んでおり、合流と分岐、車線変更の3種類だけ対応できれば良い。しかし一般道は違う。走っているのはクルマだけでなく、歩行者もいれば自転車もいる。馬やリヤカーだっているかもしれない。

 そうした混合交通において、偶発的なさまざまな状況を瞬時に判断するのはまだコンピューターには難しい。ライトを点灯して走ってくるクルマの直前に自転車を引いた歩行者がわざわざ飛び出してくることまで、今のコンピューターは想定できない。言い方が少し一面的かもしれないが、Uberの死亡事故はそういう状況下で起こった。

 さて冷静に振り返ると、自動運転では「認知」は全てセンサーからの情報に依存している。とすれば、走行中の車両のセンサーデータと車両制御データを通信で送れば、バーチャルカーを仮想空間上で同時に走らせることは十分に可能になる。もちろんそれは過去に集めたストックデータ上でも、今この瞬間誰かがリアルに運転しているリアルタイムデータでも可能だ。

 すると何が起こるか? システムが「判断」不能でストップした状況で、リアルなドライバーがどんな操作を、どういうタイミングで行ったかを突き合わせ、人工知能(AI)がどんどん複雑な状況下での運転の仕方を学ぶことができる。そこはAIの大きなメリットだ。

 トヨタ自動車は今盛んにコネクティッドを打ち出している。プリウスPHV、クラウン、カローラの3車種にはこのセンサー情報をネットを介してAIに送り込む通信システム「トランスログ」が装備されており、センサー情報をリアルタイムで送り続ける。同じ仕組みはJPN Taxiにも装備可能で、すでに一部で実験が始まっている

コネクティッドの本格運用の結果、さまざまな機能が搭載されるだろうが、中でも自動運転はコネクティッドと親和性が高い コネクティッドの本格運用の結果、さまざまな機能が搭載されるだろうが、中でも自動運転はコネクティッドと親和性が高い

 やがてトヨタの全てのクルマがコネクティッド化されたとき、一体どれだけのバーチャル実験が可能かといえば、これまでのリアルなテスト車両をリアルな専門スタッフが運転するやり方の数億年分の実験が可能になると聞く。膨大なデータによる仮想空間実験によって、事故のリスクもなく膨大なケーススタディが可能になる。

 既に何度か書いているが、トヨタは2016年1月にAIの研究・開発拠点として「TOYOTA RESEARCH INSTITUTE(TRI)」を設立した。トップに抜擢されたのは世界のロボティクス技術の第一人者であるギル・プラット氏だ。名前を耳にしたことがある方もいるかもしれないが、米国DARPA(国防高等研究計画局)でロボティクスチャレンジ・プロジェクトを率いてきたAI界のカリスマである。

 彼がDARPAを辞してトヨタに移籍したのは、近い将来、世界各地で億単位の台数のクルマが継続的にデータを収集するようになるという可能性にひかれたからである。トヨタアライアンスの規模で全車両にトランスログが装備されれば、それは不可能な話ではない。研究者にとって、米国防総省の看板よりも、トヨタの持つケタ違いに豊富なデータこそが魅力であり、バーチャルとリアルの両側に膨大な接点を持つという意味においてトヨタは明らかに他社を引き離しつつある。

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