だが、予定通りにプロジェクトが進まなかったとしても、民間人が月の周回軌道に向かうプロジェクトが計画されること自体、20年前にはまったく想像できなかったことである。夢のような話を実現する背景となったのは、広い意味での社会のIT化とオープン化である。
これまで世界の宇宙開発をリードしてきたのは米国だが、同国の宇宙開発は、常に政府機関であるNASA(米航空宇宙局)が中心的な役割を担ってきた。人類を月に送ったアポロ計画や、宇宙ステーションの運営をより現実的なものにしたスペースシャトル計画などは、すべてNASAが実施したものである。
しかし米国はスペースシャトル計画が終了するとNASAの規模を大幅に縮小し、宇宙開発の大胆な民営化を決定した。NASAは火星探査など難易度の高い科学目的のプロジェクトに専念し、宇宙ステーションの運営といった事業性の高い分野については、基本的に民間に委託することを決定したのである。
この動きを受けて、米国では多数の宇宙ベンチャーが誕生。低コストのロケット打ち上げ技術の開発に各社がしのぎを削ることになった。宇宙ベンチャー各社の中でも、マスク氏が率いるSpaceXは、従来の常識を打ち破るロケットを次々と開発し、世間を驚かせている。
特に18年2月に打ち上げに成功した「Falcon Heavy(ファルコンヘビー)」というロケットは極めて画期的であった。
同ロケットは、燃料にはケロシン(灯油の原料)、酸化剤には液体酸素を使用しており、低軌道上に約60トンの重量物を投入できる。
この数字はかなり驚異的で、かつて米国の主力ロケットだったスペースシャトルの約2.5倍、日本のロケットであるH-IIBの約4倍の能力がある(軌道傾斜角など諸条件によって数値は変わる)。ファルコンヘビーを超える能力を持った実用ロケットは、人類を月に送ったアポロ計画で使用されたサターンVだけである。
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