では、表現の自由をなるべく保障しながら、フェイクニュースに対峙する術はあるのか。まずはFacebookなどの企業が、チェックなどの徹底した対策を行う必要がある。誤った情報を広める「政治広告」を制限するのは一つの手だ。
また広告の出元や誰が費用を出しているかなどを開示し、透明性を高めること。さらには、フランスや英国などですでに行われているが、ファクトチェックをする組織の設置も一案だ。ただこうした対策は、フェイクニュースが多くの人の目に触れてからの対策であり、どうしても後手に回らざるを得ない。
フェイクニュースによる最大の被害国と言える米国では、SNSの表現の自由を直接脅かすような法規制の動きはない。そんなことになれば、表現の自由を保障した米国憲法修正第1項を侵害するとして国民が決して容認しないからだ。
ただ一方で、フェイクニュース対策にヒントとなるようなケースがある。カリフォルニア州の法規制だ。同州では、広告と報道記事を見分ける方法など、メディア・リテラシー(メディア情報を見極める能力)教育を教育現場で行うように州法で定め、教師たちにそのためのリソースを与えるよう指示している。
もちろん、ニュースや情報の真偽を見極めるのはそう簡単なことではない。ただ少なくとも、「怪しい」情報を感じることはできるはずだし、その情報の真偽をどう確認すればいいのか、ヒントを教えることはできる。例えば、情報発信者について確認したり、一手間かけて情報の出元を調べる、などといったことは可能だ。流れてくる情報をそのままうのみにしない意識も芽生えるだろう。
とにかく、フェイクニュース対策と称して、国家が国民の表現の自由、または知る権利を容易に奪うようなことがあってはならない。そうならないよう、まずはFacebookなどの媒体を運営する企業が積極的な対策に乗り出すと同時に、ユーザーもリテラシーを高めることが肝要なのだ。
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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